男子日本代表、愛称”龍神ニッポン”が、ネーションズカップで銅メダルを獲得した。
世界的な大会での男子バレーボールでのメダルは実に1977年以来46年ぶりの快挙である。
1次予選では無敗の10連勝でいち早く決勝トーナメント進出を決めた後は、イタリアとポーランドに敗れはしたが予選2位で通過。決勝トーナメントではスロベニアを破りベスト4入りし、またしても世界王者のポーランドには負けたものの、3位決定戦で昨年の覇者イタリアを撃破して銅メダルを獲得した。
日本男子バレーボールは長く低迷を続けていた。
1964年東京オリンピックの銅メダルから着実に成長を遂げて、1968年メキシコオリンピックで銀メダル、そして1972年ミュンヘンの金メダルという成功の物語はあまりに有名だが、当時を知る人はもはや少ないだろう。
あれほど日本のお家芸としてのイメージがあった男子バレーボールだが、1980年モスクワ予選から2016年リオ予選までの10回の中で、6回も最終予選落ちをしてオリンピックには出場すらできていなかったという事実は重く、直近の東京オリンピックも7位と沈んでいた。
なぜ男子日本代表はこれほど強くなったのだろうか。
2017年にコーチとして就任したフランス人のフィリップ・ブラン氏が監督となり、戦術がより明確になったことが大きな要因だろう。世界の高さに対抗するために、ミドルブロッカーの速攻とバックアタックを多用しつつサイドからの攻撃自体を速くする。さらに相手データを詳細に研究し攻撃頻度の多いパターンにブロックを仕掛ける守備の戦術も徹底した。
そして何より監督が明確に世界基準を示すことで、選手たちの視線や意識も日本だけでなく世界へと向けられたことも大きい。長年、日本では高校や大学を卒業後、日本のVリーグでプレーするのが通例で、現在も日本代表の大半がVリーグでプレーしている。しかし昨季は主将の石川祐希と髙橋藍がイタリアで、宮浦健人はポーランドでプレーし、一昨年は西田有志がイタリア、関田誠大がポーランドで腕を磨いた。日本より先行する高みの場所で、世界を肌で感じることは成長に不可欠なことだろう。
さらに何といってもイタリア・ミラノにおいて中心選手として活躍する石川が日本代表では絶対的なエースとしてチームをけん引していることが大きい。若くしてプロ選手として海外へ渡り、世界最高峰のイタリアで鍛え上げた石川のフィジカルとメンタル両方の強さと意識は、日本代表で強力なリーダーシップを伴ってチーム全体に目指す高い目標を示してきた。
そして今回の男子バレーボールの活躍で、日本代表チームの愛称である”龍神ニッポン“の名前が広く浸透した。
愛称といえば、WBC優勝の”侍ジャパン“や、2011年に世界一になった”なでしこジャパン“がなじみが深い。あとは男子サッカーのように侍ブルーの愛称こそあるが、監督の名前を冠にして“森保ジャパン”とか”ジーコジャパン”などと呼んで親しまれている。
残念ながら男子バレーボールの“龍神ニッポン”の愛称が紙面に踊ったり、連呼される機会は最近まで少なかったように思う。この愛称は2007年に公募で決定したのだが、オリンピック出場にも遠ざかっていたから浸透度は低かった。日本バレーボール協会のHPによれば「天空を自由に駆け巡る龍神は強さと気高さの象徴。天空を制する圧倒的な強さを誇る龍神のように強く、激しく、気高く世界の頂点を目指し戦ってほしいという願いが込められている」とのこと。
ちなみに同じ公募で決まった女子代表は”火の鳥ニッポン”である。
ほかの競技の代表チームの愛称をいくつかあげてみよう。ハンドボール男子日本代表の愛称は2018年に協会が公募して約1000通の応募から決定された” 彗星(すいせい) ジャパン”、ちなみに女子日本代表は”おりひめジャパン”で、こちらも公募によるもの。ハンドボールは1チーム7人の選手がコート上でプレーするが、その7という数字が「七夕」を連想させ、「七夕」で女性といえば「おりひめ」とした連想から生まれたと聞く。
19年に日本でW杯が開催され、一大ブームを巻き起こしたラグビー男子日本代表は”ブレイブ・ブロッサムズ”、7人制ラグビー女子日本代表は”サクラセブンズ”である。水球は”ポセイドンジャパン”、アーティスティックスイミングは”マーメイドジャパン”、バドミントンは”バードジャパン”、卓球はストレートに”卓球NIPPON” 、「フジヤマのトビウオ」こと古橋広之進さんからとった競泳の”トビウオジャパン”など、その由来は様々だ。ちなみにホッケー男子日本代表は野球と同様に”サムライジャパン”だが、残念ながら一般のほとんどの方は知らないと思う。また女子ホッケーは”さくらジャパン”と分かりやすいが、こちらも認知度は低いと言わざるを得ない。
またバスケットボール日本代表の愛称は男女問わず、また3x3の代表も含めて”アカツキジャパン”で統一されている。
ただし今年8月からのワールドカップに挑む男子日本代表は監督名から”ホーバスジャパン”と呼ばれることが多いかもしれない。
東京オリンピックで女子代表を銀メダルに導いたホーバス監督の圧倒的な知名度によるものだろう。
いずれにしても各競技団体が様々な工夫を凝らし、競技を一般に広め愛してもらうために名付けられるチームの愛称について、多くのファンが口にして、耳になじむかどうかは競技大会での結果次第、浸透度こそが人気のバロメーターになるのかもしれない。
今回の男子バレーボールの”龍神ニッポン”はここ何年かのうっ憤を晴らすかのように、その名前も踊った。
しかし石川祐希が言うように、まだまだ上を目指す道の途中といえるのが男子バレーボールの現在地であろう。久々の世界の頂点を極めることが目標なのだから。
次はいよいよバレーボール世界三大大会の一つ、ワールドカップが控えている。オリンピックの前年に行われる4年に一度の大会で、今年は日本で開催される。男女ともにFIVB(国際バレーボール連盟)世界ランキング上位24ヶ国(五輪開催国フランスを除く)のうち8ヶ国が参加して総当たり戦を行い、上位2ヶ国がパリオリンピックの出場権を真っ先に獲得することができる。女子が9月16日から24日、男子は30日から10月8日まで熱戦が繰り広げられて、日本戦全14試合はフジテレビ系列で完全生中継される予定だから、盛り上がりは大いに期待できる。
バレーボールという競技の性質から、テレビ放送におけるプレーの合間の顔のアップの頻度の多さ、名前の連呼により視聴者は一気にプレーヤーの名前を刷り込まれるように覚えることだろう。そうバレーボールは本来、非常にテレビ放送にマッチした競技の一つなのだ。そして全員の名前を多くのファンが知って声をからして応援した時こそ、パリオリンピック出場のチケットを”龍神ニッポン”も”火の鳥ニッポン”も獲得しているに違いない。
このトピックスと併せて、シリーズ・記憶の解凍⑨「1972ミュンヘンオリンピック回顧」~あなたは「ミュンヘンへの道」を観たか~ yasuhisafukuda.com/essay-009を参照いただけたらと思う。