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強力なストライカーは絶対に必要だ。~森保監督100試合達成後、痛切に感じたこと~

2025年11月18日のボリビア戦は森保監督が指揮を執った100試合目の記念すべき試合だったが、3対0で勝利した。(写真提供・日本サッカー協会)

森保一監督率いる日本代表は11月18日、国立競技場で指揮官の就任100試合目となる国際親善試合ボリビア戦を3対0で勝利した。
日本代表監督史上初の偉業で、通算100試合69勝14分17敗(PK戦は引き分け扱い)を成し遂げた。
2025年最後の試合は、日本代表では誰が出場しても安定したチーム力を見せつけるというテーマに前進しつつあると感じさせるほどの出来だった。

試合後の会見では、試合前に名波浩コーチやキャプテン遠藤航が、100試合のメモリアルを勝利で飾ろうとメンバー全員でエールを送られていたことも明かされた。
また日本のゴール直後の歓喜の輪の中に珍しく加わっていたことも、選手たちが呼び入れたとのことだ。
選手との関係性もよく、リスペクトされている証だと感じさせられた。
また長年森保ジャパンを取材してきたジャーナリストたちが寄せ書きした、記念のメッセージ色紙とボールも贈られた。
たとえ批判的な記事を書く立場であっても、監督の誠実さにシンパシーを感じつつ厳しい目で取材をしているメディアの多いことも事実だろう。

森保監督本人は選手、関係スタッフなどに感謝しつつも特別な感慨はないと謙虚さは相変わらずだった。
そして、ワールドカップで勝つためには選手個々のレベルアップが必要だ。対戦相手も日本を分析してくるので、こちらは相手をさらに上回る分析を重ねていくと、いつもと同じ考えを述べた。
記者会見ではスローインに時間をかけていたのは?など細かい質問も出たが、スローインのみならずCK、FKなどのセットプレー全体のバリエーションを増やすことを目指すとし、そのためにも個の強さが必要だとも答えた。
6月開幕の本大会に向けての準備プランについては、直前までメンバーの絞りこみは難しい、多くの代表候補から最後に状態のいい選手、チームの核になる選手を念頭に選んでいくと明かした。
当たり前すぎる受け答えではあるが、その時点で最高のコンディションを維持し、爆発的な活躍を期待できる選手は果たして出現するであろうか。

全ての選手にケガのリスクはあるし、コンデイションもピークは様々かもしれない。
それは全ての参加チームにとって、本大会中の戦いの中でも避けられない課題だ。
W杯本大会に向けて層は厚ければ厚い方が良く、主将の遠藤は「全部スタメンでいくぐらいの準備をしておくことが大事。若い世代が出てきていることに感謝しつつ、ただスタメンを譲るとかではないし、自分が出し切らなきゃいけないというところ両方考えとして持っている」と、競争を歓迎した。

それでは今、日本代表に絶対に欠かせないものは何か。
それは全幅の信頼が置ける、強力なストライカーの存在だと思うのだ。
現在起用されているFWについては、上田綺世、小川航基、前田大然、町野修斗らの名がある。
前田や町野はセンターのワントップ以外での起用法は今後も想定されるが、いわゆる典型的なワントップのストライカーとして、ボリビア戦では小川と上田が、今年最後の国際Aマッチに試されたと言えよう。

まず先発した小川航基(NECナイメヘン)である。
国際Aマッチ12試合10ゴールという驚異の得点率を誇り、上田綺世が絶対的なエースとして君臨する森保ジャパンの序列を覆すべく虎視眈々と狙っているはずだった。
試合前には、まずチームが勝利することと前置きしたうえで、しっかり複数得点取りたいと、2ゴール以上を自らに課していた。
ポジション争いでは上田の後塵を拝している認識はあり、1トップのファーストチョイスを目指し、そのためには爆発的な活躍が求められることも強く自覚していた。
しかし結論から言うと、まだまだ物足りなかった。
まず試合開始早々のキーパーと1対1の絶好機を決め切れなかった。20分過ぎには右クロスから決定的なヘディングシュートを放ったが決め切れなかった。

そして上田綺世についてである。
先のブラジル戦での決勝ヘッドのゴールといい、絶対的なストライカーがいないとされてきた日本代表では、現在最も期待される存在と言ってよいだろう。
この日のボリビア戦でも、後半途中出場から強烈なインパクトを残した。
1対1の当たりでも、ワンランク上の強さを感じさせられたし、何より上田のアグレッシブさを受けて、ピッチ上で全員の攻撃への意識がぐっと盛り上がったようにさえ感じた。

今年亡くなられた釜本邦成さんが、「上田の速くて重たいシュートの威力は、近年のFWの中で突出している。身長182センチの恵まれた体躯でポストプレーも秀逸だ」と絶賛していたこともある。
打点の高いヘディングシュートについては自分に似ているとまで言わしめた。
では今の上田が釜本さんの後継者と呼べる絶対的なストライカーかというと、そこまでは言い切れないとも思う。
釜本さんが挙げていた、オレさまがゴールを決めて勝利をもぎ取ってやる!というエゴイスティックなキャラクターにはなり切れていないと感ずるからだ。

上田は所属するフェイエノールトで大活躍を見せてゴールを量産しているのは事実だ。
オランダリーグ14試合出場で14得点と得点ランキングでトップである。(12月1日現在)
それでも、あの元オランダ代表FWマルコ・ファン・バステン氏は以下のような辛口コメントを、地元メディア『Rondo』に出演した際に語っている。

開幕からリーグ戦10試合で11ゴールと活躍する段階で、「彼は11ゴールを挙げているが、その内5、6ゴールは押し込んだものだ」としつつ、「彼については多くの称賛の声を目にするが、、私はワクワクするような選手とは思えなかった。毎試合ゴールを決めるとは思えない」と理想とするストライカー像とは離れていると口にした。
「彼はとても優しくて素敵な人だと思う。でも、ストライカーはとんでもない嫌な奴でないといけない。フェイエノールトには、本当に違いを生み出せる選手が欠けている」
おそらく期待が大きい分、世界的なストライカーだったファン・バステン氏は上田にゴールへの更なる貪欲さを求めているに違いない。

昨季途中から同クラブを指揮するロビン・ファン・ペルシー監督も上田についてこう語っている。
現役時代は世界的なFWとして活躍し、プレミアリーグ得点王にも輝いた実績があるだけに、重みがあるコメントだ。
「彼は非常に力強いシュートを持っている。フリーキックも蹴れるはずだ。ただ、彼自身はそこに立とうとしない。おそらく、文化的な違いがあるのだろう。良いストライカーの条件について話すなら、彼はすべてを満たしている」
「もう少し器用さがあってもいいかもしれない。例えば、倒れるタイミングだったり、身体の使い方を少し工夫するとか」
さらに、上田がよく相手選手から蹴られていることに対して「たまにはやり返していいと思う。最高のストライカーたちもそうしてきた。それも重要なプレーの一つだよ」と語った。(UEFAヨーロッパリーグ(EL)第5節セルティック戦の前日会見より引用)
日本人選手が苦手とする“狡猾さ”が少し足りないといった指摘をしながらも期待は高い。
いずれも歴代の世界的ストライカーたちの正直な感想なのだろう。

最近、がむしゃらにゴールを目指すストライカーたちの、例えばオーバーヘッドキックやダイビングヘッドといったある種アクロバチックなプレーを見かけることは少ない。
相手を圧倒し、どんな格好でもいいからゴールをもぎ取るという姿勢をみるチャンスが減ったと言ってもいい。
もちろん組織で守り、戦術でゴールを奪うのは素晴らしいし、何もトリッキーやたまたまのアクロバチックなワンプレーを求めているわけではない。
しかし相手の意表をついて、何としてでも得点を生み出すアグレッシブさもあっていいと思うのだ。

本当に偶然なことに、この文章を書いている時に知人の元サッカー関係者からラインで映像をもらった。
それは先日グラスゴーで行われたワールドカップ欧州予選スコットランド対デンマーク戦におけるマクトミネイ(スコットランド)のオーバーヘッドによるゴールだった。
試合は4対2でスコットランドが勝利し98年以来28年ぶりに本大会出場を決めた。
オーバーヘッドに繋がるパスの性質や、相手のマークの仕方、寄せの問題次第とはいえ、こうしたスーパーゴールは味方を奮い立たせる力を持つ。
またこうしたゴールを挙げた当人は絶好調のことが多く、乗りに乗って大量得点を生み出すことさえあるから不思議だ。
いわゆるゾーンに入った状態が、オーバーヘッドシュートのようなゴラッソを生みだすのだろう。
そしてその特権の多くはストライカーにこそ与えられる。

今の選手たちがオーバーヘッドの練習をしているのか、はたまた必要性があるのかは別にして、かつて釜本邦成さんはオーバーヘッドキックの練習もしていたと聞いたことがある。
そして実際に1972年のムルデカ大会で見事なオーバーヘッドシュートを決めて大会得点王になった。
残念ながら動画は見たことがないが写真にはきちんと残されていて、サッカーマガジンの追悼号にその写真と記事が掲載されている。
本人も「こんなシュートは一生に一度あるかないかだ」と語っており、4対1で快勝したこのクメール戦では4得点、次のスリランカ戦では5対0と勝利の5得点を叩き出した。大会3位に終わった日本だったが、釜本は7試合で15ゴールと得点王に輝き、マレーシア・ムルデカの伝説となったのだ。
そして何より得点王と言えば、1968年メキシコオリンピックでは6試合7ゴールを挙げてチームを銅メダルに導いた。

過去の偉大さばかりを取り上げるのが趣旨ではない。
サッカーにおけるストライカーの活躍は、チームに活気を与え勝利に導く可能性があることを今更ながら強調したいのだ。
繰り返すようだが、チーム全体のレベルアップは当たり前、組織で守り、全体の戦術でゴールを奪うのも当然だ。
しかし90分の中で個の力によって、相手のゴールをこじ開けるストライカーのパワーは絶対に必要であるし、シンボリックにチームを乗せることになるはずだ。

かつての日本代表のストライカーの記憶も、いくつか紐解いてみよう。
1998年初のワールドカップフランス大会出場を控えたJリーグシーズンにおいて、中山雅史は驚異的な4試合連続ハットトリックを達成し当時のギネスブックにも載ったほどだ。ワールドカップ本大会で日本は一試合も勝てなかったが、それでもワールドカップ日本初得点は中山が決めた。
2014年ワールドカップブラジル大会には、何と2年も代表から遠のいていた大久保嘉人がストライカーとして選出された。
2013年シーズンでJリーグ得点王となり、2014年も開幕から10試合で8ゴールと、とにかく乗りに乗っていたことでザックジャパンの大いなる期待を背負ってのサプライズ選出であった。しかしそれでも本大会でのゴールはならなかったから、ストライカーの仕事はそんなに簡単なものではないのも事実だ。

だからこそ、これから来年のワールドカップに向けてFW陣、特にストライカーには厳しい目を向け続けたいと思う。
何せ世界的ストライカー釜本邦成氏を生んだ日本のメディア、そしてサポーターにはその権利があるはずだ。
世界一になった国の代表には必ず、シンボリックで救世主的なストライカーの存在があった過去も思い出してみよう。
チーム全体が好調であることはもちろんだが、絶好調の強力なストライカーが勝負所でゴールを量産し、チームを限りなく乗せていく。
そのストライカーに相手がマークを強める隙をついて、2列目やDFまでがゴールを決められる流れになる。
いつの間にかどこからでも、どのような形でも得点が生まれていく。
そうしたことこそが、森保ジャパンが最高の景色をみるためには絶対に必要なのだと改めて痛切に思っている。
果たして来年の本大会で、そのようなストライカーは出現するであろうか。

この記事の直後、オランダ1部リーグ第15節 (日本時間12月7日)フェイエノールトの上田綺世が対ズウォレ戦で1試合4ゴールをマークした。
前半だけでハットトリックを達成し、通算18ゴールと得点ランキングトップを独走している。
乗っているストライカーとは、こういう状況を作り出せる。もちろんその背景には好調を維持すると共に、間違いなく得点を挙げるスキルの向上や精神力のタフさも備わってきた証だと思う。このニュースの前後で、ワールドカップの組み合わせも決定したが、奇遇なことに日本の初戦はオランダに決まった。
本大会までにオランダ1部リーグ得点王を獲得し、相手への脅威となるストライカーとしてオランダからゴールを奪ってほしいものだ。

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