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FIFAワールドカップ最終予選進行中 ~多くのエピソードが生まれてこそ、歴史は拓かれる~

FIFAワールドカップ最終予選が進行中である。
日本は中国、バーレーン、サウジアラビアに3連勝し、10月15日ホームにオーストラリアを迎えて4戦目を戦った。
試合は双方のオウンゴールという珍しい展開で1対1と引き分けたが、日本は4試合で勝ち点10を獲得し、グループC組の首位をキープした。
無敗を守り、当面のライバルと目されるオーストラリアに勝ち点1しか与えなかったこの引き分けは、予選の戦いの中では大きな問題こそないはずだ。

しかし私が期待したのは、長年日本と最終予選などを競ってきたオーストラリアを圧倒的な力で撃破する姿であった。
アウェーであのサウジアラビアに初勝利するなど、メンバーをほぼ固定しながら確立されてきたシステムで戦う日本に対し、オーストラリアは好調とはいいがたいチーム状況で監督交代がなされたばかりであったからだ。
そしてFIFAランキングの状況や過去の対戦成績などから、今の日本代表の真の実力を証明するのに適した実力チームとの対戦で、本当の進化がみられると思っていた。
また三笘薫や久保建英らが欧州のトップリーグでも見せているゴラッソや華麗なアシストも日本のサポーターの前で披露してほしいと強く願っていた。
埼玉スタジアムからの帰路につく6万人を超えるサポーターの誰もが、興奮気味に語り合う日本代表の新しい次元の強さや、心に残るゴールの数々を想像して楽しみにしていた。
明日、職場や学校などで話題になり、将来に渡って語り継ぐような素晴らしいプレーが生まれること、大げさに言えば、それらが新しい日本サッカーのエピソードにまで昇華することまで期待をしていたのだ。
埼玉スタジアムで見たかったのは、ホームで何とか勝ち点1を挙げる日本代表というものではなかった。

スポーツの世界では多彩なエピソードの存在が、勝負をワクワクさせたり、その競技をいっそう輝かせて人気獲得の一因にまでなる。
エピソードとは、多くの人の記憶に残り、永く語り継がれる物語とも言うべきものだ。
勝利するという結果だけではなく、因縁やリベンジという敗者の想いもはらみながら、人々の心に刻むようなインパクトを持つ感動のドラマであることも多い。
中でも競技そのもの、ピッチでのプレーの輝きこそが、何より人をひきつけてやまない、共にずっと語り合う思いにさせてくれる一番のものだ。
それがやがてその競技の発展にまでつながり、深く永いスポーツ文化になっていくと私は考えている。

今回対戦した日本とオーストラリアとの間にも、人々の記憶に長く残された過去のエピソードがいくつかあった。
5大会連続で予選の同組であり、アジアを戦い抜くためには倒していかなければいかない手ごわい相手である。
そして何より今でも、本大会で初めて対戦した2006年ドイツワールドカップの大事な初戦を忘れることが出来ない。
当時も史上最強と言われたジーコ監督率いる日本は、前半に中村俊輔のゴールで先制しながら、後半にわずか10分の間に3得点を許し逆転負けしグループリーグ敗退の大きな要因となった。かたやオーストラリアはラウンド16進出に成功した。
オーストラリアの監督は、2002年大会で韓国をベスト4に導いたキース・ヒディンク氏だった。
日本にとって長きに渡るライバルの韓国を世界レベルに引き上げた監督の采配に見事にやられた気がして、そこにも何かしらの因縁を感じた。

2011年にはアジアカップ・カタール大会決勝で対戦し、延長戦の末に李忠成の決勝ゴールで日本が優勝を果たした。
因縁の相手オーストラリアを撃破した美しいスーパーボレーは今でも語り草になっていて、2006年の仇をとった様なストーリーが語られた。
そして、2022年カタールW杯最終予選ではアウェーでオーストラリアを2対0で破り本大会出場を決めた。
途中出場の三笘薫の左サイドからのドリブルの崩しと正確なシュートが、最後に敵の守備陣をズタズタに切り裂いた。
そして当時は、三笘を途中出場からの切り札ジョーカーとして世に知らしめ、本大会での「三笘の1ミリ」にもエピソードは紡がれていった。

しかし今回の埼玉スタジアムでは、仲間と語り合いたい、未来に語り継ぎたいようなエピソードは生まれなかったと私は思う。
テレビ朝日による地上波のテレビ視聴率も、平均世帯視聴率は18.5%(関東地区)と悪くないが、過去と比べても突出したものではなかった。
2018年以来のチケット完売も、日本代表からしたら大きな話題ではないだろう。
そして何より史上最高と謳われる森保ジャパンが、あのライバル、オーストラリアを完膚なきまでに叩き潰す様な試合にはならなかった。
日本の得点もオウンゴールだから価値が下がるものでは全くない。中村敬斗の左サイドからの崩しとクロスは見事だったから、いい形の攻めであったのは間違いない。
しかし90分の中で、あれだけいい形をつくりながらも、得点の予感がした瞬間はさほど多くはなかった。
確かに三笘のドリブルの切り返しの鋭さは一級品で素晴らしい。久保の股抜きパスやシュートも欧州でも通用するハイレベルなものだ。
スリーバックシステムは定着し、ボール支配と攻撃的な姿勢は評価できるものだった。
それでも、やはり埼玉スタジアムでのホームゲームで、監督が交代したばかりのオーストラリアに勝ちきれなかったことに、サポーターも不完全燃焼感があったに違いない。

そもそもサッカーにおいて、勝利につながる要素は組み立てやボール支配など様々なものがあり、その試合運びのプロセスは極めて大切だ。
しかしながら、それは将棋や囲碁とは違い、一手ごとの積み重ねだけでは勝負は決まらないし、時に一瞬のスーパープレーが勝敗を決する事さえある。
例えば、サッカー競技の中ではフリーキックやコーナーキックといったセットプレーが、流れの中からの単なる一つのゴールだけではない奇跡を生む事がある。

そう考えると、今の森保ジャパンの中でワクワクする様なフリーキックを蹴る突出したキッカーはいるだろうか。
久保建英や堂安律、南野拓実など技術も高くキッカーとして一流だと言えるが、かつての中村俊輔や遠藤保仁、本田圭佑といった名手の域にはまだ達していない気がする。
つい最近、本田圭佑氏も自身のユーチューブで、森保ジャパンにおける確固たるセットプレーキッカーの不在にも言及していた。
「時代的な背景もあるんじゃないですか。今の子供たちは、ひと昔前に比べてたぶんドリブラーを見ていると思うんですよ。僕らの世代は、もうちょっと泥くさいプレイヤー、フリーキッカー、ファンタジスタ、いわゆるトラディショナルな世界的スター多かったと思うんですよ。だから時代の背景が日本代表選手のタイプに影響してるっていうのはあると思いますね。ファンタジスタ消えたじゃないですか」と分析。
彼もまた流れの中の攻撃も大事だが、厳しい局面を打開する一発のキックの重要性を痛感しているからこその発言だと感じた。
そして子供たちは、その時代ごとの日本代表選手たちのプレーを見て憧れて、そうなりたいと願いながらボールを蹴り続けているという物語を改めて思い起こされた。
どちらの時代がいいとかいう話ではなく、サッカーにおける勝利にとって色々な武器があるからこそ、この競技は面白い。

人々の記憶に刻まれたいくつかのフリーキックは、伝説として語り継がれてきた。
メキシコワールドカップ行きを賭けた1985年の木村和司の韓国戦での30mのフリーキックのゴール。
初めての本大会出場への悲願を乗せたボールの軌道は美しく、試合には負けたにも関わらず、忘れがたいエピソードとして40年近く経っても色褪せない。
2000年代の中村俊輔のFKは世界でも通用するほどで、いつも悪魔のように曲がりゴールを捉えた。
日本代表のみならず欧州CLでのマンチェスターUに対するFKのゴールを多くの人がいまだに話題にするほどだ。
2010年南アフリカワールドカップでは、デンマーク戦で本田圭佑のぶれ球の40m以上のFK、遠藤保一の右足からのカーブのかかったFK・・いずれも語り継がれるエピソードとして今も輝いている。

また9月と10月で合計31人の選手が招集されているが、実際に試合で起用されたのは19人のみだった。
2人のGKを含む12人が一度も起用されていない。4試合すべてにベンチ入りしながら出場チャンスがなかった菅原由勢を筆頭に、長友佑都、望月ヘンリー海輝、関根大輝といった本職サイドバックの選手たちが、攻撃的な3-4-2-1フォーメーションを森保監督が継続する中で起用されないまま4試合を終えた事実にも着目したい。
2026年ワールドカップ本大会まで、2年しかない。最終予選が終わればわずか1年で、新しい景色をみせるための戦いが始まる。
出場資格が48チームに増えたことで、日本がまずは目指すベスト8に到達するには、グループリーグを勝ち抜いた後にトーナメントで連勝しなければならない過酷な挑戦が待ち受けている。ケガやコンディション次第で、登録メンバーをフルに使って戦うことも大いに想定される。
であれば、この最終予選から複数のチーム編成が組めるような選手をしっかり試して揃えておく必要があり、かつなるべく全員に最終予選から修羅場も含めて経験させておくことも考えてほしいとも思う。
そして森保監督が選ぶ代表メンバーの実力は誰しも一級品である。招集しても起用しなかったメンバーが新しい風を吹き込むことは大いに期待できる。
例えばセルチックで活躍する旗手怜央を1分もプレーさせないことは極めてもったいないとも思うし、パリオリンピック主将の藤田譲瑠チマも展開によっては見てみたいと思うのがファン心理である。起用されたらいったいどのようなプレーを見せてくれるのか興味があるではないか。
多くの日本代表選手が海外でプレーしているので、日本でその雄姿を見る機会がなかなかないことも、その思いを増幅させている部分もある。

最終予選はどんな形であれ勝たなくてはいけない。
勝利こそ至上命題で、ヒリヒリするような修羅場の連続だという。しかしそのギリギリの戦いだからこそ、想像を超えたプレーが飛び出し、新しいエピソードがどんどん生まれるかもしれない。
奇をてらう戦略をという意味ではなく、選ばれた新しい戦力は試す価値があるはずだ。その選手たちが新鮮な話題をどんどん提供する可能性を見てみたい。
事実、森保監督もオーストラリア戦の数日後の囲み取材で「内容的には悪くなかったと思うが、勝ち点1でなく勝ち点3を取れるように、今度は力をつけなければいけないと、改めて、ホームで勝てなかった悔しさも私自身、わいてきてます。支配していた中、勝ちきれなかったのは自分の采配も含めて、何かもうひと工夫あれば勝てたんじゃないか、自分の中でできたことはあったのでは」さらに「もう1人交代枠が残っていた中で、違う起用の仕方があったのではないかなと。2点目を奪うところ、複数得点を奪うことが勝利につながる可能性をより高める部分では、まだできることはあると思う」と改善点の余地があることを明かしている。

まだ見ぬ新しい景色を見たいというのならば、かつてなかった様な強さを発揮し、新しいトライにも挑戦しながら最終予選を確実に勝ち抜くチーム総合力を求めたいと願うのは私だけではないであろう。
アウェーであってもゴラッソを連発し、こうしたらゴールが生まれるといったお手本のようなプレーを数多く見てみたい。
対戦相手によって、あるいは状況によってメンバーを柔軟に入れ替え、かつ効果的に投入していく選手層の厚い戦い方ができるはずだ。
だからこそ森保ジャパンは史上最強なんだと、批評家も一般サポーターも感じられるようなアジア王者ぶりを発揮してほしい。
優れた戦略、フォーメーションが生む流れからのゴールも、個の力を発揮したセットプレーからのゴールも、圧倒的な切り返しのドリブル突破も、股抜きシュートも全て見てみたい。
それらのプレーを次代の少年たちが真似をし、大人たちも話題にし、未来へとつながっていく光景を生み出してほしい。
確約された本大会のチケットではないにしても、森保ジャパンは確実に進化していくことで絶対にワールドカップには出場できると思う。
最終予選において勝ち点はもちろん最重要である。
しかし、その戦いの中で本大会にこそ希望が繋がる様々なエピソードが生まれることを祈ってやまない。
数えきれないほどのエピソードが生まれていく過程の中で、新しい歴史が開拓されていくはずだ。

試合前にゴール裏ではサポーターたちが描いた日本国旗のコレオは美しかった。白と赤のポリ袋を使用したアイデアも優れており代表サポーターも話題を提供した。

最後に、物事に関して多くの人々の関心を引くようなピッチ外の出来事も、またエピソードを生み出すことがあることにも触れたい。
つまり、話題作りは大切だということだ。
日本代表の最終予選の放送に関して毎度話題になるのが、アウェーゲームに関しては無料地上波放送がなく、DAZNの有料配信でしか見られない件だ。
そのことに関して日本サッカー協会の宮本恒靖会長とDAZNの笹本裕CEOが話をした結果、ある新企画がDAZNから発表された。
「100万回パスをつないで みんなで#代表みようぜ」
X(旧Twitter)でハッシュタグ「#代表みようぜ」を付けたポスト、およびそれらの「いいね」やリポストの数を集計し、100万回を超えると11月に独占配信を予定しているワールドカップ予選「インドネシアvs.日本」「中国vs.日本」の2試合が無料開放されるというものだ。
正確に言うと、無料になるのは「FAN ZONE」枠であり、通常の実況・解説が入った枠は引き続き有料となるという。
ただ、これで何とか無料で配信試合も観戦できる可能性が出てきたし、何より興味を集める企画となりそうだ。
今回のキャンペーン対象はXに限定されており、若者を中心にどれだけいいねのパスが繋がるか楽しみである。
しかし、何度も取り上げてきたが、地上波で放送されないスポーツソフトに国民全体の関心が集まるのは難しい。
また無料だからと言ったところで、多くの人が固唾をのんで視聴するかは、その魅力にかかっている。
ピッチ上で新たに生まれたドラマが素敵なエピソードになるには、証言者が多くいなくては成立していかない。
だからこそ放送の重要性は長年語られてきたわけだから、今回の企画を通して、まずは日本代表を放送を通じて応援する人を各段に増やす必要がある。
とにもかくにもサッカー日本代表の一般への認知度がさらにアップし、人気を集めることが重要なのだ.
森保ジャパンの最終予選の旅路の中で、そして続く本大会において、何十年も先まで多くの人々に語られるエピソードが限りなく多く生まれますように。
新しい景色は、その先に必ずあるのだから。

DAZNは11月6日、DAZN独占配信となる2026年ワールドカップ最終予選の日本対インドネシア、中国とのアウェイ2連戦を、
「FanZone」配信にて無料開放することが決定したと発表した。
先月より実施されていた「100万回パスをつないで みんなで#代表みようぜ」企画のパス(アクション)が、100万回を超えたことによる決定だという。
日本サッカー協会(JFA)の 宮本恒靖会長は、「日本サッカーを応援している大勢の方のパスがつながり、11月のアウェイ2連戦を無料で観戦できるようになりました。皆さんの想いが形になりました。ありがとうございます。この思いをしっかりと受けとめ、ワールドカップ出場権を勝ち取るためにアウェイ2連戦という厳しい局面に臨みます。是非多くの人に、ライブで試合を観ていただき、SAMURAI BLUEの選手たちとともに戦っていただければと思います。最後にサッカーファミリーの想いを汲み、無料配信という形でこの2試合を放映いただけるDAZNの皆さまにも感謝申し上げます」とコメントした。
さて森保ジャパンは、DAZNの有料放送配信を特別に無料開放するという英断の中で、試練のアウェー2試合において、どれだけ人々の心に刻まれる様なエピソードを残せるだろうか。
そして2試合とも日本時間の21時からということで、視聴しやすい環境にある。これで多くの国民が地上波の無い日本戦をDAZN放送を通じて応援するだろうか。大いに期待したいと思うのだが。

11月15日読売新聞朝刊の広告から、文字通り”緊急告知”。多くの一般視聴者がDAZNの無料開放により最終予選2試合が観戦できることを認知していなかったと思う。

DAZNと日本サッカー協会の話し合いで実現したと言える今回の無料開放は、一般のファンにとって手放しで喜べるものとはならなかったようだ。
無料開放されたのは既報通り「FAN ZONE」枠であり、通常の実況・解説が入った枠は引き続き有料であったのは当然すぎることだろう。
月額数千円を払っている有料会員との差別化は絶対に必要であったということか。
「FAN ZONE」枠では、試合中に出演している芸人やタレントの様子が常時ワイプで映像に載せられたことで、試合に集中できなかったという意見が多かったと聞く。この枠は意見を寄せあったり、いわゆる副音声的な役目を果たすもので、通常の試合中継とはスタンスが違うものだから仕方がないともいえる。
しかしながら、有料会員向けの放送でも実況・解説者も現地に赴かない(リポーター解説の佐藤寿人氏のみが現地)DAZNの中継スタイルで、果たしてスタジアムの臨場感や緊張感が伝わりきるのかと疑問視する視聴者も多かっただろう。
そして何より放送権契約のルールから、試合後の選手のインタビューが地上波の放送に流れることがほとんどないことも代表の認知度を上げきれない要素に違いない。
試合の中継権のみならず、ニュースアクセス権、ハイライト権、インタビューの露出について、サッカー協会がお願いレベルであっても放送権者とさらなる相談できないかと、私個人は願っている。
高騰し、かつ複雑な放送権ルールを背景に、解決がかなり難しいのは百も承知の上ではあるが、いくら森保代表が強くて魅力的であろうとも、ソフト層への訴求が少ない現状は打破できていないことを憂いている。

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