
9月5日、FIFAワールドカップ最終予選のホーム初戦で日本は中国に7対0と大勝した。
試合後の記者会見場、ミックスゾーン(メディアと選手のインタビューエリア)での森保監督、選手たちの表情にも安堵の表情を見て取れた。
直近の2大会の予選では初戦に痛い黒星を喫していた苦い経験があるだけに、誰もがまずはほっとした勝利とも言えた。
それにしても、個の力が爆発した。7得点はワールドカップ予選史上初のことだ。
超攻撃的なフォーメーションの3-4-2-1も成功を収めメディアの評価も高い。
加えて遠藤、三笘、南野、伊東、前田、久保と、それぞれの持ち味を生かしたバリエーションのあるゴールだった。
そしてわずか5日後、アウェーでバーレーンと対戦した日本は5対0と完勝した。
酷暑、移動、アウェーの洗礼、中東の壁というネガティブな要素をすべて吹きとばし、現在の日本代表の圧倒的な強さを証明してみせた。
ここまで2試合で12得点、しかも本当に多彩な得点の生まれ方が面白い。通算8人の選手がゴールを挙げているのも素晴らしい。
いつも辛口の代表OBやサッカー解説者たちの多くが、日本の個の技術と戦術のマッチを評価し、さらに進化する期待感まで示している。
さらには史上最強のチームだと言い切る人も大勢いるほどだ。
本大会で、まだ見ぬ景色を見に行くための旅路は快調にスタートしたことだけは間違いない。
FIFAワールドカップ最終予選が始まった。
メディアの扱いはどうか。
スポーツ紙、一般紙、そしてサッカー専門誌など活字は従来大会通り、露出量、質ともに充実している。しかもネット記事は速報性も抜きんでている。
7大会連続でワールドカップ本大会に出場しているだけに、日本代表の報道はいつも注目度の高いものになっているが、今回は今までにはないほど森保ジャパン称賛の記事で埋め尽くされている。
5日のホーム中国戦の埼玉スタジアムの集客はどうだったか。
キックオフ後もJFAのチケット販売サイトでは、カテゴリー3、4が購入可能となっており、実は6000枚売れ残ったという。
当日の公式入場者数は52398人だったから満員の6万人には及ばず、記者席からも空席は確認できた。
注目されたテレビ放送についてだが、5日のホームでの中国戦はテレビ朝日系で放送されて、平均世帯視聴率が16.0%(関東地区、ビデオリサーチ調べ)、個人の平均は10.0%で業界的には十分な合格点だ。
ただ10日のアウェーでのバーレーン戦ではDAZNの有料配信のみで、地上波、BSなど無料放送は無かった。
それにつけても、アジア最終予選と聞いただけで、いつもハラハラドキドキが止まらない。
もう既に7回連続でアジアの代表となった今でも、その気持ちの高ぶりは変わらないのは私だけではないだろう。
1993年、ロスタイムの失点でワールドカップへの道が途絶えたドーハの悲劇、そして1997年ワールドカップ初出場を決めたジョホールバルの歓喜。
当時は、放送の視聴率調査が現在とは若干違うものだったとはいえ、1993年ドーハのイラク戦が48.1%という驚異的な視聴率の数字をたたき出したのも、日本国民の大きな関心事になった証である。
さらにジョホールバルでのイラン戦は47.9%と国民の約半数が深夜の放送に釘付けになった。
悲劇も歓喜も、全てリアルタイムの地上波放送で日本国中が固唾を飲んで見守ったからこそ、あれからサッカー日本代表戦は国民にとって特別なものとなった。
しかし若者を中心にテレビ離れが進み、ネット配信の隆盛、さらにはスポーツのみならず娯楽やエンターテイメントの多様性から、一つのスポーツ競技が放送視聴率を稼ぐのが難しい時代になった。もはやあの頃と同じ様な熱狂は生まれないのだろうか。

埼玉スタジアムで日本の怒涛の7ゴールを見て、懐かしく想いだされたのは、1997年アジア最終予選の日々だ。
もう27年も前の昔話になった。
それまでの日本代表のワールドカップ予選の得点記録は6ゴールが2回あるだけで、その一つが1997年9月7日のウズベキスタン戦だった。
舞台は古い国立競技場で、これからアジアでの長く厳しい戦いが始まる初戦だった。
カズと城彰二の2トップが一緒にキックオフ時に、センターサークルで膝をついて祈りを捧げたシーンが今でも記憶に残っている。
あの時の国立競技場の凄まじい熱気は、最近お目にかかることがないほどだ。
ピッチまで届く大量の紙吹雪、スタンドに広げられた大きな日章旗、そして、なぜか聖火台には灯が灯されていた。
1964年オリンピックで設営された聖火台に再び点火された理由は定かではなかったが、試合運営する日本サッカー協会(JFA)も含めて一丸となって戦う姿勢の証であったように思う。
すべてが非日常の光景ばかりだった。
何せドーハの悲劇から立ち直り、初のワールドカップ出場を目指す日本代表への期待は大変大きなものだった。
まだ見ぬ景色に日本国中で挑むという雰囲気が確かにあった。
中央アジアのカザフスタン、ウズベキスタンへの移動はチャーター便で選手と全メディアが同乗した。
だからメディアも一緒に戦っているというムードは一気に醸成された。
アウェーの地カザフスタン・アルマトイで加茂監督の解任劇もあった。
代わりに指揮を執った岡田監督のもと、ホームの国立競技場でUAEに引き分けて予選突破が一時期絶望的になった。
心無いサポーターにより生卵がカズの車に投げつけられ、椅子パイプまで飛び交う事態にまでなった。
それでも奇跡のような巻き返しでジョホールバルの歓喜に辿り着き、国民的社会現象となったサッカーはやはりメディアと一体だった。
放送は、ホーム、アウェーの全試合が地上波で完全生中継であった。NHK-BSも並列で地上波は日本テレビ、TBS、フジテレビが担当した。
そうなるとほとんどの局が自分たちの中継の番に備えて、大特集を組み、ハイライトやニュース情報番組での扱いもPRも兼ねて露出量も倍増した。
熱狂の日々はこうして生まれた。
1998フランス大会で初出場した後は、テレビ朝日がアジアサッカー連盟(AFC)とアジアの様々な大会をパッケージ契約をした。
そのことで最終予選はテレビ朝日が独占したが、社運を賭けた熱い取り組みで盛り上げを展開した。
放送のキャッチフレーズは「絶対に負けられない戦いがそこにある」。
おのずとファンも緊張感をもって最終予選のドラマを毎回地上波放送で見守ってきた。
しかし、その放送の仕組みが近年になって劇的に変わってしまった。
アジア最終予選も含めてアジアサッカー連盟(AFC)が主催権利を持つ日本国内の放送権に関して、2021年8月から2028年までDAZNが独占権利を獲得したからだ。
アジアパッケージというこの包括独占権利は、オリンピックアジア予選やアジアカップ、アジアチャンピオンズリーグ、U-20、U-17 など女子も含めてのものだ。
ワールドカップの1次予選やオリンピック予選のホームなどは、地上波にも放送の権利が与えられる仕組みはある。
またサブライセンスと言って、今回の最終予選のようにホームのみ、テレビ朝日の地上波放送に並列で放送する権利を付与する例もある。
ただし、もともと高額な放送権料を支払っているから、サブライセンス料も通常よりも高い金額となっていると聞いた。
前回カタール大会の最終予選でも、日本が敵地でオーストラリアに勝利し本大会出場した試合は地上波放送されず、一般の国民が無料で視聴するチャンスが失われた。
しかし現状、アウェーに関してはDAZNの有料配信のみという仕組みは変わっていない。
この最終予選に関して、宮本恒靖サッカー協会会長自ら、何らかのアプローチを継続して地上波復活へ水面下で働きかけていると語ったが、先行きは見えてはいない。
DAZNが権利を獲得したのは2021年からなので、今からの交渉はすべてが後出しじゃんけんになる。
興味がある人はスタジアムに行くのと同じようにお金を払って視聴すればいいということだろうが、国民的関心を集めるのには不十分なのだろう。
何より地上波がないのは、それだけの価値のスポーツソフトなのだという誤った認識を、一般に持たれてしまうことこそが問題なのだ。
地上波復活戦略としては、DAZNにはご容赦願い、サッカー協会としての金策サポートやスポンサー集めに協力したり、ほかの日本協会主催試合の優先権もバーターにするなどの条件提示なども必要なのではないかと推察する。
さらに、2026年本大会の放送もどういった体制になるかは、まだ不透明であるから心配だ。
FIFAの方針もあり、全てが有料放送になることはないと信じたいが、かつてのようなジャパンコンソーシアム(JC)体制は既にカタール大会から崩壊している。
あの時はABEMAが全試合を無料配信するという大英断とNHK、テレ朝、フジが組んで、地上波を辛うじて死守した経緯があったことをもう忘れたわけではあるまい。
となれば、将来のAFC放送権再更新のときには、従来にはなかった大胆なアイデアが必要かもしれない。
新しくサッカー協会とスポンサーと放送局がタッグを組んでコンソーシアムで放送権を獲得する。
そしてそれを日本サッカー協会主催試合のように地上波放送局での放送を確保し振り分けるといったやり方だ。
本当に地上波放送を守っていくためには、そうした覚悟も必要な時代となったのだ。
スポーツが国民的関心事になる現象は、従来から無料の地上波放送がみられることが前提であった。
2023年の野球WBC、男子バスケットボールのワールドカップ、そして毎回のオリンピック、FIFAワールドカップに対する応援が分かりやすい例であろう。
サッカーで言えば、特に2002年日韓共催のワールドカップをはじめ、カタール大会でのドイツ、スペインを撃破した出来事が国民の熱狂を生んだ。
渋谷のスクランブル交差点で若者を中心に快哉の声を上げ、大阪・道頓堀ではダイブする人間が現れ、号外が街中で配られた。
そして40%から60%といったテレビ高視聴率が、熱狂のバロメーターとなった。
ちなみに現在の日本男子サッカー日本代表の一般国民への認知度と人気はどうだろうか。
もちろん素晴らしい選手が揃い、海外でも活躍するその姿は多くの日本人の知るところにはなっている。
しかし大きな問題となっているのが、サッカーにおける各種試合の放送権のみならず、そのニュース報道に関しても権利が大きく制限されていることである。
試合の放送時間尺のみならず、選手のインタビューなどの代表分岐も有料配信会社から地上波局へは原則ない。
そもそもJリーグでの放送も地上波はほとんどない上に、スペインリーグやプレミアリーグなど海外リーグの映像も有料配信に限られる。
森保ジャパンのほとんどが海外でプレーしているから、その活躍やインタビューも放送権の問題で簡単には視聴できない。
サッカー選手の活躍映像は,コアなファン向けの有料配信はあっても、地上波で紹介されることは極めて少ない現実がある。
選手のインタビューコメントもネット記事にはなっても、映像音声では届かないから、彼らがどのような声かすら知らない一般の視聴者も多いのではないか。
例えば、現在MLBで歴史的な大活躍をみせる大谷翔平を取り扱う放送、ニュース権利と比較した場合ではどうだろう。
まずMLBに関する放送権だが、NHK-BS放送により全試合を無料で全国どこでも視聴できる。そして有料のJスポーツでも観戦できる。
さらにMLBのニュース、ハイライト権利を在京キー局全社が持っており、条件付きながら大量の映像が毎日のように日本で流れている。
試合前の練習やインタビューもドジャースと本人がOKなら自由にできるから、大谷翔平の多くのコメントが連日刷り込まれるように流れる。
以上の状況を考えるとJFAに望むことは、現状多くの制限がある映像の露出に関して、JFA独自の取材素材を放送局に積極的に提供する事だ。
JFAチャンネルは協会独自で、試合日のロッカールームや練習時の表情などを撮影しアップしている。
それはとても興味深い内容だが、これらを最終予選アウェーの時などは、無償で地上波放送局にもすぐに使用できるようにしたらどうか。
日本開催の場合はJFAが選手のインタビュー取材を指定日を設けて行っており、試合放送権のない局も取材できている。
しかしアウェーに練習やインタビューだけにカメラを派遣するには予算も制限されているため、実施されないことで露出は少なくなる。
もし今回もアウェーで本大会出場を決めたときの喜びの声が、多くの地上波放送局で流れないとしたら大変残念なので、今からそうした対策を考えておくことも大事だろう。
さらにいうと、協会が日本代表試合で行うファンサービスの充実も検討してほしい。
プロ野球をはじめ多くのスポーツでは、球団やクラブが実施するファンサービスが来場者への評判になることが多い。
集客目的のみならず、コアなファンになってもらいたい想いが込められている。
MLBドジャースでは大谷のボブルヘッド人形の来場者先着4万人無料配布など、人気選手をさらに押し上げる様なサービスを実施している。
しかし日本代表に特化したファンサービスの実施は、あまりされてこなかったように思う。
かつて関係者として、選手カードや代表エンブレムのピンバッジなどを入手したことはあるが、一般来場者に配布されることはあまりないのではないか。
個人の肖像権や制約はあるかもしれないが、代表選手たちのサイン入りサッカーカードを無料で配布するなど、何か代表を身近に感じるツールを用意できないかと思うのだ。
肖像権の問題があるなら、日本代表戦を観戦するたびに増えるキャップ数を刻めるような、キャップ(帽子)そのものや、カードやピンズなどの記念品を配布する手もある。
ものは何でもいいのだろう。とにかく日本代表をもっともっと身近にしていくことが大事だと思うだけだ。
また大谷翔平ばかりを例えに出して恐縮だが、彼の行うチャリティーとしての被災地寄付や、少年たちへのグラブ無償配布なども国民に響く貴重な行動だ。
JFAもいろいろな活動を行っているが、こと代表チームが主語となったチャリティーをもっと実施しても面白いと思う。
例えばワールドカップ予選を突破しているだろう来年の夏あたりに、日本代表戦の強化試合をチャリティーとして震災復興などの義援金に充てるなどだ。
代表を応援してくれた感謝と共に、スポーツの力で国民を勇気付ける一つの方法としてである。
真の目的は、短期ではなく長い将来に渡ってサッカー日本代表のステータスを高め、多くの国民の憧れのシンボルになることを目指してほしいのだ。
つまりサッカー日本代表の動向は、どんな時も国民の一大関心事となって欲しいのだ。
以上、放送権のことやファンサービスのことは監督・選手には直接関係のないことである。
では、国民の絶対的な支持を得るために、森保ジャパンというチームそのものへ今、望む事はただ一つ。
「アジアでは絶対に負けない強さを発揮する」である。
大谷翔平は、MLB史上初の45本塁打-45盗塁の記録をサヨナラ満塁ホームランで達成したうえに、50-50を一試合3本塁打で成し遂げるというビッグニュースで国民的関心を呼ぶ。
WBCの決勝戦では最後、トラウト(当時エンジェルスの僚友)を三振に打ち取り世界一に輝くなど、アニメのヒーローのようなドラマチックな活躍で人々を熱狂させた。
国民が憧れて、かつ親しみを持てる強い集団こそ圧倒的な人気を博することになると思う。
地上波放送もない、観なくてもいいものという一般の捉え方を払拭するように、史上最高の日本代表チームを見逃したらもったいないと思わせる、異次元の強さを発揮してほしいのだ。
そしてワールドカップで優勝も夢ではないと、本気で国民に思わせることで日本代表に圧倒的な魅力が生まれるはずだ。
そのようにチームの価値が上がれば、放送を含めたスポンサーもより多く集まってくる。そうなれば地上波放送もいずれ復活するかもしれない。
岡田武史氏がよく使う表現であるが、10回戦って3回勝つのか、5回勝てるのか?
はたまた9回か10回は勝つだけの圧倒的な力の差を誇示できるか。
もはや日本がワールドカップ本大会でベスト8、いやベスト4への道を進むには、少なくともアジアでは圧倒的な力を示すことが必要と考える。
2026本大会から32チームが決勝トーナメントに進むため、ベスト4に進むためにはノックアウトシステムの決勝ラウンドで3回続けて勝つ必要があることも忘れてはならない。
だからアジア最終予選での6チームによるホーム&アウェーにおいて日本が戦う10試合については全勝とは言わずとも、アウェーであっても負けなし、ホームは間違いなく全勝といった戦いを見せてほしいのだ。
「絶対に負けられない戦いがある」というキャッチフレーズは定着したが、これからは「アジアでは絶対に負けない」戦いぶりこそが求められる。
今なおアジア予選が簡単なわけではない。これから先何が起こるかわからない。
しかし8.5枠に増えたアジアで予選通過が叶わないことは、今の日本の実力からしてあり得ないと思う。
ならば、やはり本大会でのベスト8以上を確実に視野に入れる様な戦いぶりこそが望まれる。
すなわちこの予選自体が、もはや目的ではない。
その道筋の中から明日の日本サッカーの、従来の次元を超えた未来が生まれると信じている。
ワールドカップ優勝も、もはや夢ではないと思えるほどのオーラを帯びた日本代表への国民的な熱狂、圧倒的な支持こそが新しい景色へと導くのだと私は考える。
そのためにはアジアを王者の風格で勝ち進んで、数えきれないほどの素敵なゴールや感動のドラマを生み出して、社会現象を巻き起こしてほしい。
そうした風を受けて、まずはベスト8以上、そしていつか再びのワールドカップ日本開催で世界一も実現できたら何と素敵なことか。
その時までに、国民的熱狂をつくる放送メディアを含めた環境つくりの条件が整うことを切に願っている。
