FIFAは2025年からクラブワールドカップを参加チーム32チームに拡大し新しい体制で開催するが、開催国をアメリカと発表した。
インファンティーノ会長は「インフラやサービスの充実、地元の大きな関心とともに、アメリカは新たな世界的イベントを始めるのに理想的な開催国だ」と語った。
2026年には国代表のワールドカップをメキシコ、カナダと共催するアメリカに相乗効果をもたらし、さらなる新しいサッカーの風が吹こうとしている。
2025年大会の出場クラブは各大陸の多くで未定だが、欧州からはレアル・マドリード(スペイン)をはじめ、イングランド勢のマンチェスター・シティとチェルシーなど強豪チームが参加。南米からはブラジル勢のフラメンゴとパルメイラス、北中米からはレオン(メキシコ)とシアトル・サウンダーズ(米国)の出場が決まっている。そしてアジアからは浦和レッズが2023年アジアチャンピオンとして堂々の参加が楽しみだ。
具体的な日程や開催都市、試合のスケジュールは後日発表されるらしいが、FIFAは新フォーマットの出場枠について、欧州が12、南米が6、アジア・アフリカ・北中米カリブがそれぞれ4、オセアニア地域と開催国は、それぞれ1枠とするとしている。
そして新方式のクラブW杯は各国の代表チームが参加するW杯と同様に、4年ごとの開催となる。
地球上でサッカークラブは全ての大陸を合わせて30万チーム以上あるという。
そのサッカークラブの頂点を決めるのがFIFAクラブワールドカップである。
国の代表チームの世界一を決めるFIFAワールドカップは1930年にスタートし、以降4年に一度開催されているが、クラブワールドカップは毎年開催されてきた歴史がある。
さらに詳しく述べると、クラブワールドカップは2005年から6つの大陸のクラブチャンピオンが世界一をかけて戦うのだが、現行の大会スタイルは日本開催からスタートした。
(注:厳密には2000年にブラジルでFIFAクラブ世界選手権を開催したが、大会方式が定まらなかった経緯がある。)
日本では2005年~2008年、2011、2012、2015、2016年と合計で8大会が開催され、その他はモロッコ、UAE、カタール、そしてこの形式最後の2023年大会はサウジアラビアで行われる。6大陸王者の6チームと開催国王者の合計7チームがトーナメントで戦う大会は、2025年以降、大きく拡大されることになった。
FIFAクラブワールドカップの日本開催が数多く実現したのには大きな理由があった。
もちろん大会開催能力、経験、治安も含めたホスト都市への信頼は言うまでもないが、そこに至った歴史があることをご存知な方も少なくなってきたようだ。
その背景には、1981年2月に開催されて、その後2004年までの25大会を日本でFIFAが開催してきた“トヨタカップ”の存在がある。
(注:開催は欧州サッカー連盟、南米サッカー連盟との共催、主管は日本サッカー協会、後援トヨタ自動車株式会社)
正式名称は「トヨタ・ヨーロッパ/サウスアメリカカップ」と呼び、欧州と南米の王者が当時は東京における一発勝負で覇権を争う大会であった。
そもそも欧州と南米の王者が直接対決して雌雄を決する大会は、一般にはインターコンチネンタルカップと呼ばれて、1960年から毎年、両チームのホーム&アウェーの2試合で決着をつけるものだった。当時はアジアやアフリカのクラブチームはまだ欧州、南米レベルとは言えず、事実上の世界一クラブ決定戦といっても過言ではなかった。
しかし土壌の違う欧州と南米の戦いは、過剰なライバル意識とプレースタイル、ルール解釈の相違などからエキサイトする場面が増えてきて1967年の欧州セルチック対南米ラシンとのプレーオフでは両チーム合わせて7人の退場者を生む事態まで引き起こした。
特に南米での試合は大荒れになることがしばしばあり、1971年欧州王者のアヤックスが対戦拒否をするなど、その後は欧州準優勝の代替チームで臨むことや中止も増えて大会の存続意義が危ぶまれた。
そこで生まれたのが中立国、治安もいい日本での1試合開催とするトヨタカップである。
開催を実現するために多くの関係者が尽力したが、トヨタのスポンサーシップも強力だったと聞く。
記念すべき第一回は1981年2月に国立競技場で開催されたが、キックオフは日曜日のお昼だった。
欧州王者ノッティンガム・フォレスト(イングランド)と南米王者ナシオナル・モンテビデオ(ウルグアイ)の対戦は1対0で南米が勝利した。
1980年代の日本サッカーは代表のワールドカップ出場もまだ夢の途中であり、プロのクラブやリーグも誕生していなかったため、1年に一度、クラブの頂点を決めるFIFA主催の真剣勝負トヨタカップを東京で見られることは、その後の日本サッカーの発展にも大きな財産となったといえよう。
1993年のプロ化までまだ10年以上あった日本のサッカー環境を象徴的にあらわすエピソードとしては国立競技場の天然芝が冬は枯れて茶黄色であったことだ。本来の緑の芝とは程遠いピッチの芝色が全世界にテレビで配信されたときに、欧州のファンは驚いたと聞いている。キックオフ5分前にファンがスタンドでお弁当を食べている姿も日本ならではと揶揄されたこともあった。
それでもトヨタカップ効果は計り知れなかった。
普段はほとんど見ることの叶わなかった欧州や南米の超一流のサッカーを目の前で見ることができてサッカー関係者もファンも触発されたこと、サッカーというスポーツの世界は広く果てしなく素晴らしいと認識し、プロ化も含めた新しい高みの世界を目指そうというきっかけとなったことが大きい。そして日本テレビが開始当初から全世界100以上の国と地域に国際信号制作をしたことも日本サッカー放送の発展に寄与したと思う。
古い話になるが、ジーコのFK、プラティニの幻のゴール、雪の中で黄色いボールが破裂したポルト対ぺニャロール戦、クライフ監督のバルセロナを撃破した南米サンパウロの強さ・・。
1981年から2004年までのトヨタカップ時代の25大会だけでもエピソードは尽きない。
そして2005年からのFIFAクラブワールドカップ日本開催も2008年までトヨタプレゼンツなど協賛社トヨタの名称はしばらく残された。
そして舞台は国立競技場から横浜国際競技場などに舞台を移して日本で8回開催されて、バルセロナ、マンチェスターU、ACミラン、レアル・マドリードなど普段は映像配信でしか見られない憧れの欧州チャンピオンが日本でも真剣勝負を展開した。メッシ、クリスチアーノ・ロナウド、ロナウジーニョ、カカ、ルーニー、ネイマール・・数えきれない名選手たちを日本のファンは生で堪能することができた。そして、欧州絶対有利の下馬評を覆して南米が勝利するなど、相変わらずクラブ世界一決定戦は観る者をわくわくさせてきた。
何より、そうした長い歴史がクラブワールドカップの意義を支えてきたことを忘れてはいけないと思う。
そして放送のホストブロードキャスター(世界200以上の国と地域に国際信号を制作する役目)を日本テレビが長年勤め、私もそこに関われたことも幸せだった。
昔話はこれぐらいにしよう。
いよいよクラブワールドカップは6つの大陸から従来の7チームから32チームに拡大して2025年からリスタートする。
かつて2016年大会で鹿島アントラーズ(当時は開催国チャンピオン枠)が決勝まで進み、あのレアル・マドリードと熱戦を繰り広げて、世界王者を追い詰めた試合もあった。
もはや欧州や南米以外の大陸のチームも実力を挙げてきた。だからこそ32チームで争うクラブ世界一の大会に挑む浦和レッズが楽しみでもある。
そして自分の応援するクラブが4年に一度の晴れ舞台に出場するチャンスは、サポーターにとって大いなる楽しみになる。
そもそもクラブチームのサッカーは代表チームのサッカーとは違う魅力に溢れている。
一定の人数枠こそあるが国籍を問わない多国籍の選手が所属し、監督の哲学の元、ほぼ1年中一緒にプレーすることによる団結、統率の取れたチームが実現すること、地元を中心に熱狂的なサポーターに長い年月にわたって支えられていることなど素敵なことばかりだ。
さらに、日本では天皇杯を獲得すればアジアチャンピオンズリーグの出場権を得られる。そこからこのリーグ戦を制してアジア王者になれば、クラブワールドカップにも出場できるから、天皇杯へのチャレンジ権を持つチームすべてにもチャンスがあるというわけだ。すなわち日本サッカー協会に第一種登録があれば、アマチュアチームであっても成り上がる機会が得られるなんて痛快ではないか。
いずれにしても国の代表と同じように4年に一度のクラブワールドカップは正真正銘のクラブ世界一決定戦となって世界中を熱狂させることだろう。
おそらくスタジアムの観客も観光客も多いワールドカップより、日頃のクラブチームのサポーターが押し寄せてコアな熱い応援合戦を繰り広げるのだろう。アジアチャンピオンズリーグの決勝などで名をはせた浦和サポーターの応援スタイルは、アメリカでもきっと話題になると期待している。
最後に蛇足ながら、2025年からのこの大会の放送権はどうなるのか気になってくる。
1981年トヨタカップから2022年クラブワールドカップに至るまで日本テレビが地上波を中心に放送権を保持していたが、2025年からは新体制となるだろう。
FIFAは肝いりでこのクラブ世界一決定戦を拡大発展させたから、放送権料もやはり高騰するのではなかろうか。何よりこの大会の価値については今まで語ってきたように言うまでもないのだが、果たしてどう決着するのか。
きわめて個人的には、クラブワールドカップといえば私を育ててくれた日本テレビで放送してほしいと思うのだが、そう簡単ではないのだろう。
まさか女子ワールドカップの様に、FIFAの要求額との大きなギャップから放送がなかなか決まらない事態にならないことだけは願っている。