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Ⅹゲームズという祝祭 ~日常にあった子供の頃の遊び心を想う~

Ⅹゲームズという大会がある。
1995年にアメリカで生まれたスポーツ大会で、エクストリームスポーツ、すなわち速さや高さの極限までの追求をしていく競技を集めて通常は夏と冬に行われる。スケートボード、BMX(バイシクルモトクロス)競技の中でも、パークやストリートといった種目にも分かれていて、いずれにしてもトリックと呼ばれる独自の技を繰り出して観る者を圧倒する。アメリカを中心にテレビでみせるスポーツとしても発展し、ケーブル放送のESPNが全世界に向けて映像制作して放送されてきた。そんなⅩゲームズが日本で初めて、昨年4月に千葉・幕張のマリンスタジアムで開催された。そして今年も5月12日から14日まで、同じマリンスタジアムでⅩゲームズを観ることができるから注目だ。
今年の大会も世界トップアスリート100名が参加し、日本勢ではスケートボード・ストリート女子の西矢椛、中山風奈、パーク女子の四十住さくら、開心那などオリンピックのメダリストも集結する。

そもそも東京オリンピック2020大会から正式種目に採用されたスケートボードをはじめ、BMXやスポーツクライミングはアーバンスポーツとも呼ばれ、都市型スポーツという新しいジャンルを象徴している。アーバンスポーツはスタジアムやアリーナではなく都市の広場やストリートといった人が自然に集まるところ、日常的な場所、空間で行われる。フェスなどの音楽、ファッションとの親和性が高いため、若者を中心に人気を拡大してきた。

私のような野球、サッカー、ラグビー、ゴルフといった球技や、駅伝やマラソン陸上といった現場しか経験してこなかった者にとって、昨年日本で初めて開催されたⅩゲームイン千葉は、衝撃的な初体験に満ちていた。初めてこの大会の放送に取り組んだ日本テレビは、本国アメリカESPNをはじめとする海外に向けた国際映像を作成する責務も追っていた。これらの競技中継に経験のない日本テレビスタッフは、20年以上も経験のあるESPNの制作スタッフを師匠に迎えて勉強しながら、放送にあたった。映像制作の基本は同じでも、やはり競技独特の視点の当て方やレプレイの再生のやり方などは、経験値がないとなかなか難しいからだ。そもそもどういったトリックが最高なのかという価値判断も、瞬時に判別するのはとても難しい。
私も国際信号制作チームリーダーを拝命し、後輩スタッフを見守りながら学ばせてもらったが、色々な新しい学びがあって楽しかったし、4か月後に定年退職する私には最後の大型国際中継であった分、なおさら印象が深かった。

さて未だに競技の本質の深い理解には及ばないが、大きく言えば、トリックの難易度やスピードを評価し順位が決まるスポーツだ。難易度も色々あるが、誰も他にやらない、やれないという個性的なものも評価される。ルールの一例をあげると、スケートボードのパークでは制限時間45秒のランを3本行うが、空中で回転するエア・トリックがメインだ。トリックには名称があり、バックサイド540(ファイブフォーティー)と言えば、後ろ向きに1回転半するもので、360度プラス180度で540という意味だ。
冬季オリンピックでのスケートボードの平野歩夢の金メダル挑戦の時に、こうしたトリックの名称は種類こそ違え、実況者によって連呼されたから覚えている人も多いだろう。
そしてスケートボードのストリートでは、設営された手すりなどにデッキ(スケートボードの板)を直接当てながら滑る「スライド」やデッキと車輪を繋ぐ金属部分のトラックを当てながら滑る「グラインド」などがある。選手と板が一緒に飛ぶ「オーリー」、飛んだ時に板を回転させる「フリップ」などを駆使しながら、制限45秒の自由ラン方式2本と、難易度の高いトリックに挑戦するベストトリック方式5本、合計7本のうちの得点上位4本の点数で順位を決める。10点満点のうち9点台の審査が付いた場合、「ナインクラブ」と呼ばれて賞賛されるという。
正直に言うと、全ては中継準備の中で学んだ付け焼刃のものだったが、トリックの名称が瞬時に分からなくても、凄い技だったことは観衆のどよめきと拍手、そして時に解説者の叫ぶきわめて正直な感想ですぐに理解できる。「凄い!」「やばい」・・。
さらに東京2020大会で、スケートボードのテレビ解説者の瀬尻稜さんが、「ゴン攻め」「ビッタビタ」といった表現を使ったが、その時はその意味を理解できなかった視聴者もいたと思う
ゴン攻めとは、「普通なら怖くなるような障害物を使った危険なトリックを果敢に決めに行っている」ということだそうだ。
「ゴン攻め」より程度の軽い意味の言葉として「ガン攻め」があり、スケボーの愛好家たちの間では使っている人が多い言葉のようだ。
「失敗やリスクを恐れず積極的に勝負に臨む」という意味合いがよく伝わる。「ビッタビタ」とは、着地など、技がきれいに決まること。
どちらも意味を知れば、ニュアンスが本当によく伝わるうえに、アスリートのパフォーマンスに対する敬意を込めた素敵な表現だと私は思う。
そして数多くトリックを見ていくと、それぞれの個性や、技のレベル差も少しは判ってくるから不思議だ。しまいには、「あ、これはゴン攻めだ、ビッタビタに決めてきた!」などと呟いている。そしてこうした新しいスポーツを観戦していく中で、学んだことの一つに以下のことがある。

2021年開催の東京オリンピック、スケートボード女子パークでのことだ。
予選ランキング1位の岡本碧優は53・58点で4位だった。逆転を狙った3本目最後の試技では大技「540」を決めるも、空中でボードを1回転させる「フリップインディ」に挑戦し着地に失敗し逆転はならず4位に終わった。演技終了後、他の外国人アスリートたちが歩み寄り、安全策で銅メダルを狙わず、大技に果敢に挑んだ岡本の健闘を讃えて担ぎ上げたシーンが有名になった。ちなみに金メダルは同じ日本の四十住さくら、銀は開心那であった。もちろん普段のツアー競技などでの交流があることにもよるとは思うが、だからこそそれぞれの力量を知っているうえでのチャレンジや冒険に賞賛を送る文化が根付いている象徴だと思う。
オリンピック・日本代表コーチの早川大輔氏は、「ただ勝つことが目的ではない、大会は順位決めのみならず誰かが凄い技を成し遂げたら讃えあう文化がある」と語っていたことも思い出す。
さらにスケートボーディング・ホール・オブ・フェーム博物館の館長のトッド・ヒューバーさんは、「このスポーツでは、技が成功する数よりも、失敗して身体が固い道に叩きつけられる数のほうが圧倒的に多い。何度失敗しても立ち上がる。それは人生とまったく同じ。それをスケーターたちはみんな理解しているから、互いに優しくリスペクトしあう」と語ったと、ジャーナリスト長野美穂さんの記事で読んだことがある。
伝統的な従来のスポーツ以上に、アスリート同士の絆や友情が生まれやすく、相手へのリスペクトも半端ではないと感じてしまうことが多い。

さて、自分で長々と書いておきながら勝手ではあるが、色々なことを難しく考える前に、まずは幕張に足を運ぶなり、テレビでⅩゲームズを観戦してみて欲しい。3日間の大会の模様は日本テレビで地上波、BS、CS、Huluを通じて放送される。
スケートボードは他にバートという種目があるし、BMXのパーク、ストリート、そしてフラットランドも相手との駆け引きが大変面白い。
Moto Ⅹのベストウィップというのもあり、鉄製のランプと呼ばれるジャンプ台を使用して75フィート(約23m)の距離、およそ10m以上の高さで技を繰り出す競技は迫力満点である。
アスリートたちも本当に若い。それこそよちよち歩きの頃からスケートボードを始めた選手が多いと聞く。そして自分の出番を待つ間や、素晴らしいトリックを決めた相手を迎える時には自然と友達同士の笑顔の輪がそこにはある。
なぜだか昔自分が公園や広場で友達と遊びながら、日が暮れるまで過ごした日々を思い出した。年代によってその遊びは様々であったろう。古くはコマ回しや、鉄棒でどこまで遠くに着地できるかなどの遊びをした時代もあった。フリスビーやローラースケートや、単純に縄跳びが何重に飛べるかを競うものもあった。いずれにしてもその公園で一番の技をみせた者が、みんなから称賛されていた世界があった。他に誰もやらない新しい技をみせたら周りが大騒ぎした。勝っても負けても笑顔があった。たぶん一緒に遊ぶことが楽しいし、明日もっと腕を磨いてみんなを驚かせようと思っていたからに違いない。
プロたちの大技をそんなことと比べるのは大変失礼かもしれないが、きっと原点はそこにある気がしてならない。
ふとそんなことを思い出しながら、今年もまたマリンスタジアムのⅩゲームズという祝祭に足を運んでみたいと思う。

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