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あなたのサッカー日本代表愛はいかほどか? ~国民的スポーツになる日は来るか~

2026ワールドカップアジア最終予選後の記者会見でも、世界一を目指すには国民的な関心が必要なことを強調した森保一日本代表監督

森保ジャパンが世界最速で2026FIFAワールドカップ出場を決めた6月10日から、およそ3か月が経過した。
世界一を目指すと公言した森保ジャパンは、最終予選後には東アジアE-1選手権、アメリカ遠征などを経験し、ワールドカップ制覇に向けた旅路の歩みを進めている。
サッカー男子日本代表が試合を中心に活動をするたびにメディアはその都度注目し、それなりの報道がなされているのは事実だ。
ただいつも思うのは、世界一を狙う競技としては、メディアの扱いも、一般国民の関心は必ずしも高くない現実がある。

そのような現実の中、大阪・吹田スタジアムで6対0と圧勝した予選の最終試合のこと、そして何より試合後の森保監督の記者会見を思い出している。
森保ジャパンは既に8大会連続出場を既に決定していたこともあり、最終予選シリーズでは7選手を初招集し、そのうち負傷で離脱したMF熊坂光希を除く6人がデビューを果たした。
代表デビューとなった三戸舜介が正確なクロスで先制点をアシストし、代表3キャップ目となった森下龍矢は代表初ゴールをマークした。
試合後の記者会見では「経験の浅い選手たちを再招集、初招集させてもらった中での印象は、こんなにできるんだという所。個々の素晴らしい特徴を持っているなという印象が大きいです」と振り返った。
その後、東アジアE-1選手権、アメリカ遠征の中で新しくレギュラー争いに躍り出るような選手は生まれただろうか。

またあの会見では、久保建英のゲームキャプテン起用は、森保一監督のマネジメントによるものだったことも明かした。
「欧州組の主力(堂安律、板倉滉、南野拓実ら)は、あえて招集されませんでした。タケ(久保)にはチームリーダーとしての役割を担ってもらいたかったから、あえて彼を呼んだのです」こうした久保のキャプテン起用は、久保への期待値のみならず、メディアや国民への訴求を高める意味でも大きな意味があったと私は思う。
日本代表にはいつもピッチの内外で、ホットな話題も必要であるからだ。
そしてこの日の会見でも森保監督は、ある内容の言葉を繰り返し熱く語った。

ワールドカップに優勝するには、1競技団体の努力や範囲の中では無理である。日本国全体の関心事になるような状況を生まなければならない。
そしてサッカーで世界一になることは、日本の国のスポーツ全体ためにもなることである。
ざっとこのような内容の言葉を、あの夜の記者会見のみならず、その後も様々な会見やインタビューでもいつも語っている。

森保監督はサッカーという競技の影響力をいやというほど知っている。
熱狂のJリーグが開幕した時にもプレーし、1993年ドーハの悲劇のピッチにいた彼は、そのころの日本代表への国民的関心を覚えているはずだ。
そして監督として2022カタール大会でドイツ、スペインを撃破したこと、ベスト8を賭けたクロアチア戦では敗戦したが、選手たちが本気で悔し涙を流したことを胸に深く刻んでいる。
だからこそ、本当に難しいチャレンジだが世界一を目標に掲げたうえで、国民全体の後押しを望んでいる。
FIFA(国際サッカー連盟)は国連より加盟国が多く「世界的なスポーツはフットボールだけ」という現実を、2022大会覇者のアルゼンチンを見て確信したという。
首都ブエノスアイレスで行われた優勝パレードには、推定500万人が集結。政府も臨時の祝日にしたほどだ。
その映像に圧倒された瞬間から「日本でもVパレードを」と思い描くようになった。
「東京なら皇居周りとかですかね。もちろん考えを押しつけるつもりは全くないですけど、皆さんが集まって、日本人が日本に、日本人が日本人に、自分に誇りを持てるような時間を共有できたらいいな、と。そのために勝ちたいと本気で思っています。サッカーを通して感じてもらえれば」

日本を代表して戦うという意味もまた人一倍感じている。
試合前の国歌斉唱で君が代を歌うことを選手、スタッフ全員に要求することもあった。
「日本の国歌って、『うわー』って歌うような、諸外国の歌とは違うかもしれないけれど、しっかり歌う」と言い、その意図を説明した。
「みんな国の代表として戦うので、我々を現地で応援してくれている人たち、テレビやメディアを通じて応援してくれている人たちにも、日本代表のみんなを見て、自分たちも日本人の誇りと大和魂を感じてもらいながら試合に挑むことを一緒にやってもらえるように。そこから入っていけるように、勝つための準備をしましょう」と。
試合後の監督インタビューでは必ず、スタジアムに来てくれたサポーターとテレビ放送の前のファンに感謝を伝えるところから始まるのは定番だ。
監督の仕事は、選手の選考から起用、戦術の決定、マネージメントが本業ではあるが、代表の象徴的な存在であるからこそ、こうした一般ファンへの訴求も考えることは大事だと思うし、彼がそうしたことへの高い意識を持っていることには共感する。
メディアを中心に、選手起用、戦術的なシステムに関する議論、批評に晒されること、さらには常に結果を求められるのは当たり前のことだ。
それを前提に森保ジャパンを、サポーターを含む日本国民はどのようにみて、とらえているかが大きな課題となっていくだろう。
つまり一般国民がどれほどの愛情を注いでくれるのか。日本代表への愛の強さ、重みははいかほどなのかと。

今年は6月3日に、プロ野球が生んだ国民的スター長嶋茂雄さんが亡くなった。
この国民的スターの人気を生んだ背景には、日本が戦後から立ち上がり復興と共に高度経済成長の時代があった。
国民全体がヒーローを求め、テレビという新しい文化もその誕生を後押ししたも言える。
特にあの昭和の時代は、働きずめのお父さんたちが帰宅し、お茶の間でビールを片手にブラウン管の前に陣取り、巨人戦の中継を一日の終わりの楽しみにしていた。
多くの家庭では、父親がチャンネル権を持ち、子供たち家族は必然的に巨人戦、そして長嶋茂雄の活躍ぶりを目にして育った。
何より1960年の天覧試合(昭和天皇が後楽園球場で観戦)でサヨナラホームランを放った長嶋は伝説のヒーローへと瞬く間に駆け上がっていった。
そして野球というスポーツは国民的スポーツとして完全に定着していった。

もうそんなスーパースターは誕生しないとよく言われる。
しかし野球には将来に渡り、長嶋茂雄と同じように多くの国民が愛し慕われるニューヒーローがその活躍を見せつけ始めている。
大谷翔平だ。
確かに大谷の活躍は桁外れであるし、人間的魅力にも溢れているし、様々な話題にも事欠かない。
ただ大谷の認知度を後押ししているのはメディアの力に負うところも大きい。
長嶋時代と違って地上波試合中継こそないが、NHK-BSや有料のスポーツチャンネル放送が全試合を放送している。
アメリカ西地区の時差の関係から、深夜ではなく昼間の時間帯で、毎日の様に大谷翔平が観られるし、そこで連日のようにホームランや盗塁の記録を塗り替えるのだからすごい。そして朝から晩まで情報番組は大谷ニュースを扱わない日はない。
さらに平成から令和にかけて格段に広まったSNSや配信も、その情報発信を異常と言えるほどに後押ししている。
しかし逆に情報や事実への興味は、多様性を極めているから、誰しもが大谷を推しとして追いかけているはずではないのだが。

そもそもスポーツの人気の尺度はどのように測られるのだろうか。
競技人口や、全国でのクラブ母体の数、プロスポーツとしての興行の規模、少年たちのスポーツ選手としてなりたい競技のアンケートなど、どれも参考にすべきものはいろいろある。
ではメディアの扱いという目線ではどうであろうか。
新聞、雑誌を中心とした紙媒体、関連するネット記事を含めて、扱い量や質といったものはもちろん人気尺度にもなる。
そしてやはり国民にとって一番わかりやすいのは、放送の視聴率がバロメーターになることだけは昔から変わっていない。
ワールドカップ最終予選の視聴率は以下である。
2024/9/5(木) 日本vs.中国: 16.0%
2024/10/15(火) 日本vs.オーストラリア: 18.5%
2025/3/20(木) 日本vs.バーレーン: 21.7% ※ワールドカップ出場決定
2025/3/25(火) 日本vs.サウジアラビア: 16.7%
2025/6/10(火) 日本vs.インドネシア: 12.4% (いずれも関東世帯視聴率調べ)
地上波ゴールデンタイムで15%から20%とれば合格点だから、まずまずの数字であるが、とびぬけて注目されたわけでもないのが現実だ。

となれば、日本代表サッカーはワールドカップに優勝しなくては国民的な支持は得られないのだろうか。
いや、私はそうは思わない。
何故ならサッカー日本代表は、間違いなく国民を熱狂させた熱い歴史を積み重ねてきたからだ。
視聴率をさかのぼるだけでも、あのドーハの悲劇イラク戦48.1%は深夜の日本国民の多くがテレビで応援した。
さらには自国開催とはいえ2002ワールドカップのロシア戦66.1%、1998フランスワールドカップのクロアチア戦60.9%、アルゼンチン戦60.5%と驚異的な視聴率は、間違いなくその時々の日本国民の興奮を反映した数字なのだから。
それが時に瞬間風速的な追い風であったこともあったかもしれない。
それでも俗にいう国民的関心事として、男子サッカーが語られてきた事実は間違いなくあった。

ただし今後においては、そんな関心事という領域を超えて、日本サッカーが国民的スポーツと胸を張って言えるようになるには、やはりワールドカップで少なくともベスト8、いやベスト4以上の結果というものは絶対に必要なことになるだろう。
いつか日本サッカー代表が、ペレやロマーリオ、ロナウドらを擁して世界一に輝いたブラジルの様に、ケンペス、マラドーナ、メッシが輝きワールドカップを勝ち得たアルゼンチンの様に、国民のほとんどに愛されるようになって欲しいと夢見ていた。
決勝の生中継を視聴する国民は90%以上というような、サッカーの国になる様を、私はいつも想像、いや今はまだ妄想しながら日本代表の試合を観戦している。
きっと多くのコアなサポーターたちもまた同じ思いで、毎回日本代表の試合を、スタジアムで、またテレビ・配信の前で見守っていると私は思う。
だからこそ、今度こそベスト8以上、いや優勝まで目指すという森保ジャパンには、その旅の途中であっても国民的関心を巻き起こす使命があると言ったら言い過ぎだろうか。

いかなるスポーツの世界でも、歴史のどこかで大きなターニングポイントがある。
絶対に逃してはいけない、飛躍的な発展へのチャンスも必ずある。
どの時代でもどの状況でも、あるスポーツを、あるチームを、あるアスリートたちを応援したくなる熱い心はどうしたら生まれるのだろうか。
9月14日に閉幕した東京開催の世界陸上は大いに盛り上がった。
もしもという言葉は禁句とはいえ、もしも最終日に男子4x100mでメダルを獲得していたら話題はさらに盛り上がったであろう。
それでも男子110mハードルで村竹ラシッドが、男子400mで中島佑気ジョセフが、3000m障害で三浦龍司がメダル獲得に肉薄したことで、日本陸上界のトラック競技もまた、国民的スポーツとして認知される期待を膨らませた大会であった。
すなわちプロセスが大事、自己ベストに拍手を送ろうとは言いながら、一般国民にとってスポーツは自国の選手たちが世界に勝つという瞬間をいつも待ち望んでいるのもまた事実であろう。
どこかで大きな飛躍のシンボルの誕生と、ビッグモーメントを待ち望んでやまない。

10月、11月にかけて日本国内で森保ジャパンのワールドカップに向けた強化試合として国際Aマッチが4試合も組まれている。
来年の本大会に向けての重要なテストマッチの連続であるが、ほかにも大きな意味がある。
おそらく海外組も招集されるだろう、ベストメンバーの日本代表を国内のスタジアムで多くのサポーターたちが直に見ることが出来るチャンスでもある。
また全試合がゴールデンタイムの地上波で放送されることも国民的関心を呼び起こす絶好の機会である。
ワールドカップ予選と違いDAZNやテレビ朝日一局の放送ではないだけに(4試合を民放局は地上波放送持ち回りで担当する)NHK、民放のほぼ全局が試合中継のみならずニュースや情報番組で大きく取り上げる可能性も高い。
そして特に10月14日のブラジル戦は多くの日本人が対戦を楽しみにしているビッグカードである。
他にもパラグアイ、ボリビア戦など強化にももってこいの相手であり、好試合が期待される。
何よりワールドカップ優勝を目指すなら、国内開催のこの4試合は全て内容のある試合で、しかも勝たなくては意味がないと思う。

ブラジルとは過去12回戦って、2つの引き分けのみで勝利はない。
何といっても世界一に5回も輝いたサッカー王国を相手に、日本はどのような戦いに挑むのか。
2006年ワールドカップにジーコジャパンを粉砕したロナウドらのいたブラジルを多くの日本人も憶えているだろう。
こうした注目のゲームで、歴史に残るようなスーパーゴール、ゴラッソを決められるか。ブラジルを固い守備で完全に封じ込められるか。
おそらくブラジルにも中継されるであろうこの試合で、サッカーを国民的スポーツとしているブラジルのサポーターですら驚くような日本のエクセレントなプレーを見せつけられたらどんなに素敵なことだろう。
サッカー王国と呼ばれるような国では、相手国がどこであろうと代表Aマッチすべてに国民全体が関心を寄せている。
そんなサッカーの国の代表を相手に、ドラマチックなシーンが多く生まれたら日本国民の森保ジャパンへの期待値があがり、愛情もきっと深まっていくに違いない。
単にワールドカップ強化の道筋のみならず、国民の熱狂を呼び起こすための夢の途中であるこの4試合にも、大きな話題を提供するプレーを是非見せてほしいと願う。
そして森保ジャパンに向けられる多くの愛情が、国民全体を巻き込むようなレベルの熱量になるか、そしてサッカーが国民的スポーツと呼ぶにふさわしい存在になれるかが、今問われている。

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