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史上最強と謳われる森保ジャパンの現実 ~今でも高い中東の壁~ 

ワールドカップでドイツに勝ち、スペインにも勝った。
2023年からドイツやトルコといった強豪を含む、国際Aマッチでも10連勝していた。
それでも今回のアジアカップでイラクに負けた。日本は1988年大会で敗れて以来、グループステージでは25戦無敗(19勝6分け)だったが、これも36年ぶりにイラクに打ち砕かれた。ちなみに日本がイラクに敗れるのは1984年以来、40年ぶりのことだ。
アジアカップの歴史と記録においても「日本敗北」はショッキングなニュースである。
まして現在の第2次森保ジャパンは史上最強チームであり、アジアの最高峰と大会の前評判も極めて高かったからなおさらだ。
しかも森保監督の掲げる目標は、ワールドカップ優勝、すなわち世界一であるから、アジアにおける王者奪回を課せられていたはずだ。もちろんまだグループリーグであるし、これから立て直して優勝も狙えるとも思うから、史上最強ぶりを発揮してほしいと願う。

しかし気になるのは、やはりアジアの中で、今回も日本は中東の国に敗れたという現実だ。
もちろん1980年代には歯が立たなかった中東勢にも日本は勝てるだけの力はつけてきて、今やアジア最強と言われるまでになった。
日本は、1992年アジアカップ初制覇から2000年、2004年、2011年と4回の優勝を果たしている。
そして今大会は3大会ぶり5回目の優勝を目指すに値する、史上最強日本代表の呼び声が高い。その中でのイラク戦の敗戦はやはりショックであるし、またしても日本の前に立ちはだかったのが1993年ドーハの悲劇といわれたイラクであるのは因縁めいたものを感じる。
選手としてピッチに立っていた森保監督が、今回監督として同じ地で勝てなかったからメディアも騒ぐ。しかし、ことの本質はそうした過去の負のノスタルジーや物語性ではない。

敗因についてはいろいろ言われているし、専門家たちの意見に任せよう。
ただ私が強く感じたことは、サッカーには、圧倒的なストライカーの存在がやはり必要なのだということだ。
サッカーには色々な得点の取り方、取られ方がある。どういう戦術をベースにするにせよ、流れの中での得点、あるいはセットプレーからのゴールなど、多彩だからこそサッカーは面白いと思う。
しかし完全なお膳立てがあろうとなかろうと、チームのためにきっちり仕上げのゴールを決めるエース・ストライカーはやはり必要だ。
時に個の力でゴールを決めるなど、そのエースといえば、今の日本代表でいうと三笘薫くらいなのかもしれない。その切り札のピースを欠いた日本はやはり決定力にも欠けると言わざるを得ない。
もちろん伊東純也、久保や堂安など素晴らしい選手たちだが、浅野、上田、前田をはじめ前線の絶対的なストライカーの力量がもっと問われるような気がする。
あるいは戦術的にサイドアタックもいいが、もっと中央を突破するオプションやチャレンジをしてもいいとさえ思う。
とにかく泥臭くても一瞬のスキをつく本能的な前線での動きやトリッキーなプレーも時には必要だと思ってしまうのだ。

前回大会の決勝のカタール戦に3対1で日本は敗れて準優勝だったが、カタールのアルモエズ・アリの先制点を覚えているだろうか。
ゴール前で胸トラップの後、ボールを浮かしてからのオーバーヘッドキックは凄かった。最後の局面ではアリの卓越した個人の力が日本ゴールをこじ開けたのだ。      
今の日本代表FWにそれだけの閃きやアイデア、そして卓越した技術を兼ね備えた選手はいるだろうか。
古くは1996年UAE大会での準々決勝、クウェートの長身FWのホーワイディに2得点を許し、カズや高木琢也、前園のいた日本代表はベスト8で敗れ去った。
ゴール前の一番危険な場所に一瞬をついて顔を出すという、ストライカーに一番求められるプレーをやられての重い2点だった。
そして今回のイラク戦である。
身長189センチの27歳FWで、今季イラク国内リーグ得点ランキング1位のA・フセインが強烈な2発をたたき込んだ。
イラク国内リーグと代表戦を合わせ、直近の公式戦9試合で10得点。聞けば、1996年生まれ、幼少期にイラク戦争が始まり、父は2008年に首都バグダッドで起きたアルカイダのテロで死亡。警察官だった兄は、14年に過激派に拉致され連絡が取れなくなったそうだ。安全で戦争のない日本に暮らす我々には想像もつかない世界に生き、彼らはそれでもサッカーをしている。

もともと世界のトップレベルで通用するストライカーを中東の国々は輩出してきた。
1994年ワールドカップでも活躍したサウジアラビアのオワイランは、対ベルギー戦で約60mを独走ドリブルして5人をかわしてゴールを挙げ、”砂漠のマラドーナ”と呼ばれた。
またイランの英雄アリ・ダエイは国際Aマッチ149試合において通算109得点を挙げたが、これは2021年9月1日にポルトガル代表のクリスティアーノ・ロナウドに、記録を更新されるまで長らく世界1位であった。恵まれた体格と驚異的な跳躍力で高い打点から打ち下ろすヘディングに定評があり、1997年ジョホールバルの日本戦のヘディングによるゴールも鮮烈な印象だった。
日本は、このダエイのいるイランには勝てない、もうフランスワールドカップには行けないのではないかと観念したほどだった。
しかし結果は、延長の岡野のサドンデスゴールで、日本は3対2でイランを降してワールドカップ初出場を決めることができた。延長戦で、先にイランは頼みのダエイが決定機を外したのだから、勝負は紙一重だ。

サッカーはもちろん一人の力では決して勝てないが、それでも一人の突出した能力がチームを勝利に導くものだ。
欧州、南米ばかりに光が当たるが、戦時下であるなど決して良くない環境で育ちながらも、中東の国から優れたストライカーは生まれてきた。
中には才能がありながらも、いわゆるサッカーの陽の当たる場所に行けないまま、埋もれていった選手も数多くいるのではないか。自国リーグで稼げないとか、スムースに欧州などに移籍もままならないなど、サッカーでエリートコースを歩むには、あまりに障害があるのではないかと推察している。それだけ中東には複雑な歴史背景があるからだ。
そんな中、やはり中東の選手は国を背負っての意識が高く、たくましいと言わざるを得ない。
今大会のイラクは昨年のガルフカップ2023(中東諸国8か国によりナンバー1を決める大会)で4回目の優勝を果たした強豪で、いわば直近の中東の顔、代表格である。
FIFAランキングは63位と日本の17位には劣るが、代表のAマッチにおけるランキング上位国との対戦機会などによる順位決定の仕組みもあるから、鵜呑みにはできないはずだ。
今大会は中東のカタールで開催されていることもあり、スタジアムの雰囲気も完全にアウェーなことは事実だ。
しかしイラク戦では、日本の浅野がゴール前でタックルされて主審によるPK宣告も、結局VARで取り消されたりしたが、決して”中東の笛”などではない。
日本の前に立ちはだかったのは、まだまだ高い中東の壁だ。

追記)
ベスト16が出揃ったトーナメントで日本の初戦は、1月31日バーレーンとの対戦となった。長年のライバル韓国との対戦が濃厚だったが、韓国がグループリーグ2位となったため、ここでの直接対決はなくなった。
しかし当面の相手はまたも中東の国バーレーンだ。このチームにも警戒すべき194㎝の長身FWユスフがいる。
また、この対戦を勝ち上がっていくと、準々決勝ではイラン、準決勝も前回優勝国で今回開催国のカタールが勝ち進んできて、そこでもまた中東のチームとの対戦が待ち受けているかもしれない。これら中東の壁を打ち破ってこそ、日本の強さは本物といえると思う。3大会ぶり5回目の優勝を目指す日本の戦いぶりに注目だ。

2月4日追記)
森保ジャパンは準々決勝でイランに敗れてベスト8にとどまった。バーレーンには3対1と勝利して中二日の対戦だったが、イランも同じ条件だった。
前半に守田のゴールで先制したものの、後半はイランの強みであるフィジカルを活かしたロングボールの徹底攻撃に会い1対2と逆転された。ある意味、完敗だった。アディショナルタイムの板倉のPKがどうであるとか、左サイド、久保からのドンピシャのセンタリングに上田がヘディングシュートを決められなかった、といったことではない。日本にはまだまだ足りないものがあったというしかない。それにつけてもどんな形であれ、やはり中東の壁にぶち当たって日本代表が沈んだのは残念で仕方がない。史上最強と言われたチームだけにショックもそれなりに大きい。そして世界地図を見て改めて思った。世界中でアジア大陸と呼ばれるエリアは限られている。そのアジアの中の一部とされる中東にも、様々な国が存在している。やはり世界は果てしなく広い。

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