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パリオリンピックの煌めき④ ~男子サッカーに成し遂げてほしいこと~

7月26日の開会式を前に、サッカー競技は既に開始された。
そして男子サッカー日本代表は、24日グループリーグの初戦でパラグアイに5対0と快勝し好スタートを切った。
悲願のメダル獲得に向けて大いに期待できる展開となった。

日本男子サッカーの歴史において、唯一の形になった勲章は、1968年メキシコオリンピックでの銅メダルである。
もう56年も前の時代と現在では、サッカーの質も取り巻く環境もすっかり変化しているし、何よりサッカー界ではFIFAワールドカップが一番の価値を持っているのは間違いない。
それでもIOC(国際オリンピック連盟)はFIFAに対して、人気オリンピック競技としてのサッカーへの意欲的な大会参加を求めてきた。
FIFAとしては、同じ4年に一度のおひざ元のワールドカップとの差別化を図るために、参加選手を23歳以下のチームに限定することを
IOCと取り決めている。いわゆる国のトップチームA代表とは違う編成でオリンピックは争われるのだ。
しかしIOCとFIFAは上限3名のオーバーエージ枠を設定し、若いだけではなく、さらにレベルが上がるかもしれないチーム派遣の実現を可能にした。
いずれにしても世界各地域の予選を勝ち抜いて参加できるチームはわずかに16チームだ。
日本は1996年アトランタ大会以来、8大会連続でオリンピック出場を果たしており、それは立派なことだ。
韓国は9大会連続出場を果たせず、パリ大会には姿を表せなかったほど、わずか16チームに残ることは難しいからだ。

今回のフランス大会出場国16チームの中で、オーバーエージ枠を利用しないのは日本のみで、2008年北京大会以来のことである。
事情を明かせば、候補にした選手の多くは海外クラブでプレーしており、クラブが拘束し派遣を許可しなかったこともある。
U-23 代表では中心的な存在だった松木玖生も五輪直前の海外クラブ移籍もあって、大岩剛監督も代表には選べなかったのだろう。

オーバーエージ枠の活用については様々な意見がある。
3人枠をうまく使えば、チーム力のアップが見込まれることの方が多いと言われる。
事実、日本も過去に守備の要を軸に招集してきた。

世界各国の例では、2016年リオ大会において、開催国ブラジルが意地をかけて金メダルを狙いに行き、当時代表の絶対的エースであったネイマールまでオーバーエージ枠で招集して、見事に優勝を果たした。
サッカー男子決勝戦は、7万3千人と超満員のマラカナンスタジアムで行われた。
ブラジルとドイツとの決勝戦は延長でも決着がつかず、PK戦に持ち込まれたが、ブラジルは5人目のキッカーのネイマールが決めて同国初の金メダルを獲得した。
当時24歳のネイマールが顔を覆い泣き崩れたほど、ブラジル国民にとっても歓喜の瞬間だった。
裏を返せば自国開催でのオリンピック優勝は絶対的な命題であったからこそ、ネイマールも招集され、それに応じたのだろう。
ただ今回の本題はオーバーエージ枠利用の是非論ではない。

今度こそメダルを獲得することは、日本男子サッカーにとって絶対に成し遂げてほしいことなのだ。
もっと正直に言うと、そろそろ1968年メキシコ銅メダルより上位の成績、すなわち決勝に進出し金か銀メダル獲得することは、成し遂げなければならない命題だと私は思う。
もちろん勝敗は時の運も味方しなければならないのはわかっている。
ただ日本のサッカーがここまで成長した歴史の中で、さらなるステップアップを実現するための一つの勲章こそが、たった今必要なのだ。

ワールドカップに1998年から2022年まで7大回連続出場を果たし、そのうちベスト16進出は4回も果たした。
2018年ロシア大会ではベルギーを追い詰めながら最後の失点で逃したベスト8入り、2022年カタールではグループリーグ(GL)でドイツ、スペインを撃破したが、クロアチアにPK戦で敗れて、またもベスト8という新しい景色を見ることが出来なかった。
オリンピックでも、2012年ロンドン大会でGLでスペインに勝利したが、3位決定戦で韓国に敗北した。
地元開催の東京では、久保建英らを擁し、吉田麻也らオーバーエージも揃えて万難を排して臨んだが、準決勝でスペインに敗れ、3位決定戦でもメキシコに勝てず銅メダル獲得はならなかった。

新しい景色とは、まだつかんだことのないタイトルを獲得する、まだ進出したことのないステージに上るということに違いない。
ただ、私が考える新しい景色とは、歴史の中でその競技がまた一段と輝き、競技人口がさらに増加するとか、日本国中のサッカーピッチが整備されていくとか、国内リーグの集客力も選手の報酬もさらにアップしていく環境が出来ていくといった、エポックメイキングなパワーを生み出すものと考えている。

古くは1964年東京オリンピックで、将来プロになるような選手もいたアルゼンチンを破りベスト8進出、そこでサッカーという競技が一般にも知れ渡った。その勢いもありクラマーコーチの発案で1965年日本サッカーリーグが誕生した。
定期的なリーグ戦は選手強化に貢献したが、サッカーを観戦する習慣も根つかせた。
1968年メキシコオリンピックで銅メダルを獲得して、野球少年からサッカー少年に乗り換える現象も生まれた。
五輪得点王・釜本邦成を見習って、黄金の足・杉山隆一の真似をして、少年たちが汗を流すようになった。

その後長い冬の時代を経て、1993年日本で初のプロリーグであるJリーグが発足した。
カズ、アルシンド、ジーコとサッカー選手の代名詞が世の中に浸透した。
しかし大きなエポックがつくられたその年に、ドーハの悲劇という語り継がれるエピソードが生まれた。
それでも悲劇を乗り越えて、ジョホールバルの歓喜、そしてその後の時代はつくられていった。

さらに2002年日韓ワールドカップ共同開催により、サッカーの世界の奥深さ、魅力に多くの日本人が気付かされた。
世界に飛び出していく選手も年を追って増えていき、今では日本代表Aメンバーはほぼ海外クラブ組だ。
海外5大リーグの超一流チームで活躍する選手も多く誕生した。
そしてカタールW杯で、ドイツ、スペインを破るなど日本のFIFAランキングが世界18位になった事は素晴らしいことだ。
ワールドカップで4回もベスト16進出したことも立派なことである。
それでももう一歩先を行く、もう一つ上を目指すための闘いを日本サッカー全体がしている最中だ。
近未来におけるワールドカップ優勝、Jリーグの開催シーズン改革によるグローバル化と集客力アップ、女子サッカーの発展など、一つ一つ進む道の途中は簡単ではない。

となれば、今回の大岩ジャパンオリンピック代表チームには、少なくとも決勝進出、そして金メダルという誰しもが認める勲章を勝ち取ってほしいと願っている。
金メダルが生み出すパワーは、きっととてつもないものだ。
やりたいと思うスポーツにサッカーと答える少年たちが増えるだろう。プロを目指すサッカークラブが多く地域に生まれる力にもなるだろう。天然芝のピッチがさらに全国に広がるかもしれない。
金メダルという勲章そのものの価値は絶大なものであるが、日本サッカーが常に新しい景色を見ようとする道筋の中で、このような形だけでない象徴的な勲章こそが、いまこそ必要だと私は考える。

それは単独のチームの話ではなく、一つの大会だけではない場において、日本全体の底力を身に着けてきたかどうかが、この何年か試されていると思う。
そのテストとしてオリンピックは最適な場所ともいえよう。
しかも23歳以下だけの、かつメンバー18人中12人がJリーガーという日本チームが挑んでいるからなおさらだ。
2026年ワールドカップ予選も進行している中、日本サッカー全体が真の実力を持っている証の一つをみせることで、大きな後押しにもなると思う。
そして今のチームには、メダル獲得のポテンシャルがあると信じている。
まずはグループリーグを圧倒的な力で突破してほしい。
8月10日の決勝戦で戦う大岩ジャパンの姿を思い描きながら、見守りたいと思う。

日本は7月27日、第2戦の対マリに勝利しグループリーグ突破、ベスト8を決めた。
ここまで快調だが、決勝トーナメントの初戦の相手が気になってくる。
細かい星勘定は省くが、スペインか、エジプトと当たる予想で、やはりスペインとはここで当たりたくない相手だ。
はたして日本が成し遂げる道の途中で、どんな運命、ドラマの筋書きが待っているのか。それはそれで楽しみでもある。

7月30日の対イスラエル戦に1対0と勝利し、3戦全勝でグループリーグを突破したた日本の準々決勝の相手は、エジプトに敗れてC組2位となったスペインに決まった。
3年前の地元東京大会の準決勝で延長戦の末に敗れた相手へのリベンジなるか。
何より金メダルを目標に掲げている以上、いずれは当たらなければならない強豪と注目の一戦となった。
日本が新たな歴史を切り拓く道筋にとっては、むしろ歓迎すべき運命のような気がしてならない。


8月2日の準々決勝で、日本はスペインに0対3で敗れた。
多くの記事を要約すると、こうだ。
点差ほどの実力差はなかった、オーバーエージ採用なしでよく戦った今回の日本チーム、次はA代表でリベンジだ。
そして何より不可解な日本・細谷のゴールのVARによる取り消し。
サッカーという競技の本質さえ問われる、今回のようなVARの問題については別の機会にしたい。
いずれにしても健闘した今回のU-23日本代表には、お疲れ様と言いたい。

ただ日本サッカーはまたしてもオリンピックでのメダル獲得はならなかった。1968年メキシコでの勲章を超えられなかった。
大岩ジャパンはいい準備をして、優れたチームを23歳以下だけで作り上げたのは素晴らしかった。
しかし、日本サッカーの新たなるエポックメイキングをすることは叶わなかった。
またしても、男子サッカーが成し遂げることが出来なかった事実だけは、忘れてはいけない。

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