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パリオリンピックの煌めき② ~日本は全ての団体球技競技が参加~

パリオリンピック開幕まで、あとわずかとなった。
今回のパリ大会では32競技329種目が行われるが、日本選手団の選手数は海外で行われる大会では2008年の北京大会の339人を上回り、史上最多の400人余りとなる見通しだそうだ。

日本選手団の尾縣貢団長によれば、日本は金メダルの目標を20個に設定、銀、銅を含むメダル総数は55個、入賞120を目標に掲げた。
海外開催の夏季五輪で過去最多だった2004年アテネ大会の金メダル16個を上回る成績を目指す意気込みだ。
ちなみに自国開催だった2021年の東京五輪では、金27個を含む58個のメダルを獲得した。

日本選手団の参加人数が増加している理由の一つに、団体球技競技と呼ばれるチームスポーツの活躍があると思う。
オリンピック種目の中で、いわゆる団体球技競技は以下の7つであり、パリ大会には、それらすべてに男女両方か、もしくは片方のチームが厳しい予選を勝ち抜いて参加するのだ。
バスケットボール男女、バレーボール男女、サッカー男女、7人制ラグビー男女、ハンドボール男子、水球男子、ホッケー女子である。

パリへの道のりがどんなに厳しいものだったか、予選の試合を通じて、日本の多くの人びとが改めて強く感じたのではないか。
2021年開催の東京大会では自国開催であったため、原則として自動的に出場権を獲得していたので、あまり感じなかったかもしれないが、そもそもオリンピックの球技における出場国は、バスケットボール、バレーボール、ハンドボール、7人制ラグビー、ホッケー、すべて男女共に12か国などと、本当に狭き門だから、日本全体として素晴らしい快挙と言えるだろう。
ちなみにサッカー男子は16か国、女子は12か国、水球は男子12か国、女子は10か国である。
いうなれば、どの競技でも出場した時点で、世界で12位以内の力を持つということに等しいからだ。
中でもバスケットボール男子が48年ぶり、ハンドボール男子が36年ぶり、バレーボール男子も16年ぶりに、開催国枠でなく自力で五輪への道を切り開いた。

もちろん、この夏パリでは、多くの様々な競技において、日本を元気にしてくれるアスリートたちの活躍を期待している。
メダルの期待がいつも大きい柔道、レスリング、体操、水泳、陸上、卓球・・数え上げたらきりがない。
アスリートたちは、金メダルやいい成績、あるいは自己ベストを目指して堂々と戦うはずだが、観戦する側は、結果のみならず、その道筋を楽しんで応援しようといつも思っている。
ここまでの苦難の道を歩んだアスリートたちの晴れ舞台に拍手を送りながら、ハラハラドキドキすればいいのだと。
ベストな成績を目指す、その努力の結果を見届けることで感動が生まれる。
そして、それでも日本に勝ってほしいと願い、大げさかもしれないが、応援することで、生きる活力、元気も貰おう。
少しずつでも日本全体が明るくなるはずだ。
そして外国選手であっても、メダリストや相手選手たちへのリスペクトも、常に忘れないでいたい。というのが私の、全てのアスリートたちへのエールの基本と、オリンピックを大いに楽しむ心持ちである。

さて、ではなぜ今回のコラムで団体球技の話題にこだわったのか。
それは先に挙げた7つの球技競技を見比べても、メディアの露出度や注目度の格差があまりにも激しいからである。

もちろん競技自体の歴史、競技人口、世界でのランキング、メダルへの期待値など、注目度に差があるのは致し方ない。
いわゆるメジャースポーツと、時に関係団体やファン自らがそう呼ぶマイナースポーツとの日頃からのメディア露出の違いは歴然とあるからだ。
しかし先に述べたように世界で12か国しか出場できない頂点の場で、もう少し光を当ててもいいのではないかと思う団体球技の競技がある。
その代表がホッケー女子や水球男子、ハンドボール男子であろう。
特にホッケー女子はオリンピック6大会連続、男子の水球も3大会連続出場を果たしているのだが、どんな選手がプレーしているのか一般の認知度はゼロに等しいのではないか。放送では、スポーツニュースなど情報番組ですら取り上げられる機会が少なく、試合中継に関してはほとんどないのが現状だ。一般新聞報道も紙面は小さく、結果が扱われる程度のことが多い。
それを言えば7人制ラグビーも同様だろうが、2016年リオ大会から採用された競技であることや、ラグビー競技自体の認知度は高い。

関係者との縁から、6月30日に開催されたホッケー女子のソンポジャパンカップに出かけた。
正直に告白するとホッケーの試合を見るのはわずか3回目だ。韓国と対戦する日本代表女子”さくらジャパン”のパリオリンピックに向けた国内最後の壮行試合の位置付けだった。
大井ホッケー競技場の観客数は2000人程度だが、それでもパリに出発するホッケー女子日本代表に熱いエールを送っていた。
フィールドプレーヤー11人同士で激突するホッケーは、戦術的にサッカーにも似ている所もあるが、何よりスティックさばきの技術が要求される。15分ごとのクォーター制の60分はあっという間に過ぎ去った。
日本が韓国に2対1で勝利し、試合後に日本ホッケー協会名誉総裁である高円宮妃殿下がパリオリンピックへの壮行スピーチを行い、選手たちを大いに激励した。
試合の中継放送はTver で生配信されたが、地上波やBS放送といったテレビはつかなかった。
翌日の読売新聞では、わずか数行の試合結果のみが報道された。

6月30日に開催された、ホッケー女子日本代表対韓国SOMPO JAPAN CUP 試合前のパリ五輪壮行セレモニーから

ほかの競技と具体的に比較するのは意味がないとはいえ、バレーボールやバスケットボール、サッカーはどうであるか。
バスケットボールは昨年のワールドカップを機に、今では代表試合の地上波やBS放送は当たり前となっている。
バレーボールも男女ともに昨年の予選を兼ねたワールドカップ中継(フジテレビ)、今年のネーションズリーグ中継(TBS)共に民放の地上波、BSで日本戦は完全生中継がされている。
サッカーに至っては男女ともに予選からオリンピック前強化試合までNHK含めて放送を観ることが出来た。
具体的には7月17日のU23日本対U23フランス戦は五輪前強化試合で重要であったこともあるが、NHK地上波の生放送(日本時間朝4時から)まで行われた。
繰り返すが、同じ団体球技でも過去の実績やプロリーグの存在、一般の人気によってメディア露出に差が出るのは致し方ないとは思う。ましてや試合中継ともなれば、運営費を含む全体予算、スポンサーの意向、放送局の事情でなかなか成立しにくいのは理解できる。
ただ4年に一度のオリンピック出場に、どの競技にも、もう少し光が当たるようにならないかと思うだけだ。

ところが本番のオリンピック中継においても、マイナーと呼ばれる球技競技にとっては悲しい現実がある。
マイナーとはあまりにネガティブな印象がぬぐえないが、現状ではいわゆるライトなファン層が少なく、コアなファン層に支えられている競技と考えたい。
その本番のオリンピック放送権は、日本ではNHKと民放各局で構成されるジャパンコンソーシアム(JC )が保持している。JC全体としてどの競技をどの放送局が放送するかは、協議のうえ決定される。
各局はやはりメダルが期待できる人気競技や種目、さらに日本時間で視聴しやすい時間帯の競技を放送したいため、希望が重複するほどだ。その場合は抽選で担当局を決めざるを得ないほどの人気競技が複数ある。
その一方で、特定放送枠さえ確保されず最初からJCとして中継予定のない種目があるのだ。
それはパリ大会の場合、団体球技ではホッケー女子と水球である。
もちろんニュースなどハイライトとして放送があるはずだが、日本の大活躍がない限り長尺は望めない。

JCは、現地に実況アナウンサー、解説者まで派遣して放送体制を構築するが、これも予算やスタッフ数に限りがあるため競技は限定される。残念ながら中継枠がないためホッケー女子、水球男子の実況、解説者の準備はない。
現地ではOBS(オリンピック放送機構)が全競技を国際信号制作をしているため、国際映像は全て存在する。ただその映像につく音は国際音声と言って会場のノイズ(アスリートや観客の声など現場の音)だけである。
ただ重要なポイントは、JCは放送権利者として、OBSの制作する全競技を受け取り、放送する権利自体を持っていることである。
ホッケーであれ水球であれ、また日本戦に限らずすべての試合はOBSが制作しているから、JCは自由に利用できるというわけだ。

そうしたJCの権利を活かして、このパリ大会から日本における各期的なオリンピック中継体制が初めて実施される。
民放各局が共同出資しているTver では、単独のプラットホームでほぼ全競技がライブ配信されるのだ。
Tverは無料であり、登録やログインは一切不要である。
地上波番組の同時配信も魅力だが、地上波で放送されない多くの競技をライブ観戦できるのは画期的なことだ。
配信予定表を見ると、ホッケーや水球も日本戦のみならず外国同士の試合も全試合配信が予定されている。
これで日本協会自らがときにマイナー競技と呼ぶホッケー女子も、フルに観戦できることになったから朗報と言えよう。
ただ一つだけ忘れていけないのは、JCが実況・解説を付けて放送しない競技は、国際映像と現場の雰囲気音だけでの視聴となることだ。それでもコアなファンは間違いなく配信にアクセスすることだろう。
もともとあったJCの放送権(正確にはメディア権と呼び、放送、配信、パブリックビューイング、ビデオ化権など一切を含む権利)をようやくフルに生かせるようになったのも、昨今のスポーツネット配信の隆盛という背景があるのも確かだ。
ただ、そんなことより視聴者にとってより良い環境が提供されることを素直に喜びたい。

私自身も、水球、ハンドボール、ホッケーなどの団体球技を観戦、あるいは取材をしたことのあるのはオリンピックの時ぐらいしかなかった。
普段見慣れないスポーツもじかに触れたら、その魅力に気付かされることも多かった。
規模や状況は様々だが、男子バスッケットボールは昨年のワールドカップでの活躍により、Bリーグの観客数が驚異的に伸びた。
女子サッカーWEリーグは現在DAZNでの有料放送がメインで観客動員数は伸び悩んでいるが、代表としてのなでしこジャパンの試合は地上波放送がなされることが多く、選手の名前も浸透している。
2011年に世界一になった、なでしこジャパンだからこそであろう。
ホッケー女子なども、これからメディアの露出が増加することで人気も上がっていくことを期待する。
そのためには大会でベストの成績を上げることも大切だろう。本当はメダル獲得が理想的だが、現実的には厳しいと予想される。
それでもホッケーというスポーツ自体の魅力が、一般に伝わるようになっていくといい。
ちなみにホッケーは2030年、今から6年後にワールドカップの日本開催を目指していると聞く。
いきなりのチーム強化は進まないのがスポーツだ。そう、進化に突然変異はあり得ない。
周りの環境を含めて地道な活動が重要なことは間違いない。
しかし、にわかファンが生まれるのもスポーツだ。そうした現象も、私はいつも大歓迎だ。

まずは今回のパリオリンピックだが、Tverで普段観戦したことのない競技を覗いてみようではないか。
もちろんそれは団体球技だけでなくともいいだろう。
パリでは新種目として若者に人気のブレイキンもあるし、タヒチで開催されるサーフィンも面白そうだ。
自転車のロードレースを、日本では地上波などで観戦したことがないかもしれない。
ヴェルサイユ宮殿を舞台に行われる馬術は、その匠の技だけではなく、華麗な会場の雰囲気が画面から伝わってくるかもしれない。
実況や解説がなくても、きっと十分に楽しめるだろう。
まだ知らなかっただけ、触れたことがなかっただけのスポーツの魅力に気が付く絶好のチャンスを逃す手はない。

注)NHKの放送担当競技の地上波やBS放送の配信はNHK+で無料で視聴できるから、セットで大いに楽しめると思う。

7月29日女子ホッケーさくらジャパンの中継がNHK-BSで放送された。
グループリーグ第2戦の対中国の試合である。
先に述べたようにJCとして現地に実況アナウンサー、解説は派遣していないので東京でNHKが用意したコメンタリースタッフにより、現地OBS制作の映像を見ながらの放送であったと思うが、ホッケーがBSで放送されて本当に良かった。
ただ初戦のドイツ戦0対2に続いて、この中国戦も0対5と連敗してしまったのは残念だったが。
ちなみにTverでも配信されており、これは上記で述べたように国際映像をそのまま配信したもの。
ただ現地実況がない場合、ノイズ(現場音)のみの放送になると解釈していたが、丁寧に国際制作側(OBSの用意した実況アナ)で英語のガイドライン実況がついていた。
通常JC派遣チームの実況音声はそのまま配信でも同じ内容のものが流用される。例えば柔道や水泳、サッカーなどすべてそれが基本である。しかし今回のホッケーはNHK独自制作的なものなので、Tverはライブ配信されたものの日本語実況は使用されていなかった。
現場体制やJC放送ルールの詳細はさらに確認したいと思うが、とにかく今回のパリオリンピックに参加した団体球技で、ホッケーがいわゆる地上波、BS放送でされない事態は回避できたことを嬉しく思った次第である。
果たして実況担当がJCで決まっていない、もう一つの水球の放送はあるのか?
もしTver での配信しかなくとも、ぜひ試合を覗いてみたいと思っているが、NHKにも期待したい。


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