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なでしこジャパンの新しい船出に ~今後の方向性を体現する新監督は誰だ~

パリオリンピックで優勝を目指していたなでしこジャパンは、準々決勝でアメリカに0対1と敗れてベスト8にとどまった。
東京オリンピック終了後からチームを指揮してきた池田太監督は、昨年の2023女子ワールドカップでもベスト8に終わり、残念ながら2011年に果たした世界一への復活はならなかった。オリンピック後に池田監督とコーチ陣の辞任が決定し、また新しいなでしこジャパンの船出が始まることになった。

何事もリスタートが重要である。
なでしこジャパンのパリ後の最初の試合は10月26日の韓国戦であったが、新監督はまだ決定しておらず、女子の強化委員長の佐々木則夫氏が一試合限りの監督代行としてチームを率いることになった。2011年になでしこのワールドカップ初優勝を導いた佐々木氏にとっても8年ぶりの代表指揮であった。
さらに強化責任者である女子委員長の立場で、新しい方向性を掲げながら実戦を指揮することもあり、ある意味多くの注目を集めざるを得なかった。
通常なら、女子委員長を中心にこれから目指すサッカーを体現できる新監督を早々に決定したうえで、新しい船出をするのがベターであるのは間違いない。
そして強いなでしこの復活への土台を作るために、その佐々木監督代行が掲げる指針こそが、次なる新監督の選定にも大きく関係してくるはずであったからだ。

佐々木監督代行は、まず「アグレッシブな守備」を掲げた。例えばある日の練習を“守備の日”とし、ゲーム形式のメニューでディフェンス面の戦術の浸透に努めた。
メンバー発表会見では「パリ五輪で日本は平均18・5本くらいでボールを奪っていた。上位4カ国は6~8本だ」とデータを紹介しつつ、意図的なボール奪取の少なさを課題に挙げた。この合宿では、第1守備者を明確にし、全体が連動する形を徹底させた。
確かにパリ五輪の戦いでは、相手ボールの際に自陣に引きすぎて積極的に奪いにいくアクションが少なかったことは反省点として挙がっていた。
池田前監督も主導権を握るスタイルを理想としながらも、強豪の欧米相手には堅守速攻が効果的と考え、手堅い戦い方を選択せざるを得なかった面もあった。
それでもより高い位置からアグレッシブにボールを奪いに行き、ポゼッションも高めながらゲームをコントロールできるだけのチーム力とその哲学を貫くことは重要だ。
だからこそ、後方からきちんとボールを繋いでいくプレーも含め、新たなスタートを切るにあたっての指標になるようなサッカーにみんなでトライしようという狙いを共有していたとした。
選手の反応も概ね良好だったようだ。ミーティングに中で守備に入る角度やタイミングなども教え込んだそうが、非常に細かく高い守備の意識をまずは植え付ける狙いがあったのだろう。
いずれにしても佐々木監督代行は、今回の指揮はあくまで臨時とし「次のステップの指標に」とした。
すなわち新しく選ぶ監督にも、なでしこジャパンの目指す世界一になるためのサッカーの方向性を示し、踏襲したうえで極めてほしいということなのだろう。

なでしこジャパンの試合におけるゴール裏サポーターの熱心な応援風景は男子と変わらないのだが、明らかに取り巻く様々な環境は違うといえよう。

試合は国立競技場で行われ、世界ランキング7位の日本が、同19位の韓国に4―0で快勝した。
招集されたメンバーにはパリ組が多く残り、大抜擢といった存在の選手はいなかった。それでも初招集の遠藤優など近未来のなでしこを背負うであろうメンバーも揃った。
韓国もまた新監督になったばかりで、オリンピック出場もならないなど、課題が多いチーム事情を抱えていた。
日本は鋭いプレスで押し気味に試合を進め、右CKから先制すると、前半のうちに2点を追加。後半も19歳のMF谷川萌々子がゴールを決めて突き放した。
ボールを失った後の切り替え、ボールを奪った瞬間に繰り出すカウンター、高い位置からのアグレッシブな守備と、なでしこの目指す形が随所に出た。
北川のボール奪取から生まれた2点目、サイドを崩しボランチが得点を取る4点目は理想をピッチで表現しての得点となった。
一方で2人のセンターバックを中心に、後方からのビルドアップの際のパスミスも目立ち、肝心な高い位置でのハイプレスからのボール支配以前の課題も見受けられた。

試合後、佐々木監督代行も「切り替えと展開の速さでいい指標になった」と手応えを感じたようだ。
ボールを失った瞬間の切り替えの速さ、奪った瞬間のアクション、ダメならボールを動かすことへのリズムの切り替えをテーマにしたとも話した。
また、韓国との対戦成績を9勝4敗11分けとし、監督時代に3勝3敗2分けだった佐々木監督代行自身の“勝ち越し”を決めたことも話題の一つになったが、これは未来につながるエピソードではない。

なお観衆は12420人で、国立競技場の収容人数を考えれば空席の目立ったことは否めないが、実はパリオリンピック行きを決めた北朝鮮戦も同じ国立で約2万人ということを考えれば、そもそもなでしこの現在の集客力は決して高いものではないのも事実だろう。
そして仕方のないことではあるが、新しい船出は、やはり新監督が正式に決定し、その監督が選出する選手、目指すチーム戦略が具体化しなければ始まらないということだろう。
例えば新キャプテンには従来の熊谷紗季に変わり、GKの山下杏也加が務めたが、これまた新監督の意向で全ては決まるのだろうから、本格的なチームの始動は待たなくてはならない。

チームの中心選手である長谷川唯は、この日の戦いについて相手と力の差があった部分を割り引いて考える必要がある点に触れつつも、「ポジティブな要素もたくさんあったし、生かしたいことや今後もこうやっていきたいと思う部分もあった」と話した。
しかしその一方で、「監督が決まったらメンバーがガラッと変わる可能性もあるし、誰が招集されるかも分からない。それでも、なでしこの今後のコンセプトをしっかり確認しながら、それを出せた試合になったと思う。今日の勢いや、前からいく姿勢は次につなげていければいい」と、パリ以降に設定されたこの日の初試合と、そのためにまずは集結して活動を開始したことの意義を話した。
確かにこの試合で今後のなでしこの方向性がすべて見えてくることはなくても、なでしこらしさを再現し、カウンター頼みだけではなく、ボールを積極的に奪い、またボールを保持するサッカーも出来ることを示すことは大切なことであったように思う。

年内には女子日本代表の新監督が決まる予定だと聞いた。
女子委員長を務める佐々木監督代行は「次の監督にバトンをわたし、彼女たちなら女子ワールドカップ、五輪でご期待に添えるチームになると思っている」と今後の成長に期待を寄せてはいるものの、その新監督の選定はなでしこの近未来の命運を大きく握っていると言えよう。
藤野あおばや谷川萌々子を筆頭に20歳前後の選手たちは、U-20、U-17代表でも活躍し世界を経験している。
今後の3、4年は大変可能性を感じるなでしこジャパンになると思いと佐々木氏も語っている。
それだけにこうしたポテンシャルが高く、若くして世界と戦っている経験値のある若い選手たちを、どのようにステップアップさせてくれるか、次の監督、コーチ陣には大いに期待したくなる。

今回、佐々木暫定監督のもと、臨時コーチとして元・日本代表の内田篤人氏が起用されたことも話題となった。
何度かあったCKの中で、先制点に繋がったプレーは特にデザインされたものだった。
佐々木監督代行は「内田君がセットプレーを担当していまして、デザインされていました。多少ブロックをして前をフリーにしていました。長谷川選手の良いクロスもありましたし、まさか北川選手がそこに入ってくるというのは知らなかったですが、タイミングとウッチーの攻略のお陰だと思います」と、今回コーチとして参加している内田氏の指導の賜物だと称えた。
確かに日本代表や長くドイツでプレーした内田氏の、自らの経験に裏打ちされた的確なアドバイスは効果的であったのは間違いないだろう。
試合後のミックスゾーンでも北川ひかるには、このCKからのデザインについて内田コーチの助言についてメディアの質問が殺到した。
もちろんコーチの助言は大変参考になったとはいえ、メディアに対して、その話を欲しがりますねと北川は突っ込んでいた。
彼女たちはもうU17の若手とは違うはずだから、ことさらに話題にするのもどうかと思うが、それだけ内田氏のようなキャリアと経験を持ち、選手に納得感を与える存在は今後も絶対に必要なのだと思う。
加えて今回の内田コーチ起用とその成功は話題性にも富んでいたからメディアも大きく報道した。
欧米など海外でプレーをし、外国人監督の下で指導を受けている多くの選手たちを大いに納得させつつ、自身の戦術を徹底させるコーチ、監督がより求められる中、もし内田篤人氏がその役目を担えるのなら、本人の意向はさておき、監督とは言わなくともコーチなどの候補に入ってもいいのではないかとさえ思う。

また新監督の選任に当たっては、外国人監督も視野に入れて検討が始められているという。
これまで、なでしこジャパンの監督はU-17、U-19、U-20からA代表に持ち上がりで昇格するケースが多く、外国人監督は俎上にすら乗らなかったような気がする。
おそらく監督のギャラなど予算に関する壁もあるのは想像に難くない。
しかし今後、世界チャンピオンに復権するためには、考えられる最高の条件を整えて、優れた監督、コーチを招聘する必要がある。
戦術やマネジメントに関して一流で、できれば代表やクラブチームでの監督実績があることは望ましいが、性別や国籍を問題にすることはないと考える。

2011年ドイツワールドカップで、なでしこジャパンが世界一に輝いた決勝戦のフルマッチビデオを久しぶりに観た。
当時も世界をリードするアメリカとの対戦で、1対1の同点からPK戦を制して初の優勝を勝ち取った試合である。
澤穂希、宮間あや、岩清水梓ら戦力的にも揃っていたが、そのチームを率いていたのが佐々木則夫監督であった。
繋ぎのミスやボールを失う機会は多かったが、それでも積極的に高い位置からボール奪取を目指す姿勢は一貫して感じられる試合だった。
しかし前がかりになった時にアメリカのカウンターからゴールを奪われた試合でもあった。

また2023年オーストラリア・ニュージーランドワールドカップでの、グループリーグにおけるスペイン戦のビデオも見返してみた。
その大会に優勝したスペインを日本は4対0と撃破したのだが、見事なカウンタ―からのゴールはどれも素晴らしかった。
池田太監督の相手の力量や戦術を熟考したうえでの、徹底的に引いて相手に敢えてボールを持たせて守りながらの逆襲は作戦勝ちとも言えた。
何よりカウンターからのパスからシュートの正確さや巧みさは群を抜いていたから、こうしたFWの個の強さでゴールするのもサッカーだと思えた。
いくら自陣で深く守り、機をうかがってカウンターを仕掛けても、肝心の攻撃陣が一発で仕留めるくらいの力がなくてはならない。
それでも違う試合では、高い位置でのボール奪取が叶わず、ボールを支配できないと一気に苦しい試合展開にもなった。

戦術には正解はないのかもしれない。その時々の選手のポテンシャルや経験、個性を考慮しつつベターな選択をすることもあるだろう。
それでも世界を制したチームのサッカー戦術は、やはり意味があり、その哲学が徹底されてこそ実を結ぶ。
サッカーは、一瞬のボールのひと転がりで運命が変わるスポーツでもある。
でありながら、どのようにしたらチーム全体でボールをポゼッション(支配保持)できるのか、いかにしてボールを奪うやり方が有利になるのかなど、一貫した戦術という哲学をピッチで具現化するよう導く指導者、すなわち監督で未来も変わる。

新しい監督には多くの希望者がいると日本サッカー協会宮本恒靖会長も明かしている。
しかも今回は初の外国人監督も視野に入れての人選になっているとも聞いた。
日本人監督でも優れた指導者は多くいる。
しかし、女子ではいまだかつてなかった外国人監督を選択するという新しいステップも私は歓迎する。
メリットは日本人選手の持つ、勤勉さや規律に対する高い意識を活かしながら、世界一を目指すだけの戦術の徹底をしていくのには外国人監督のトライが面白いと思うからだ。
そして新しい監督の起用について、素人の門外漢でもいろいろ想像を巡らせるのは自由だし楽しいものだ。
男子日本代表の監督を振り返っても、ジーコ、オシム、ザッケローニ氏などの起用の際には胸を躍らせた。
チーム強化が第一義としても、メディアも飛びつくような話題作りや期待感も同時に生まれるからだ。
予算の問題など課題はあるが、今回は特に悔いのないよう、今考えられるベストと思える監督の起用を願う。

繰り返すがリスタートは大切である。
しかも、長く世界に挑戦を続けて、一度は世界一に輝いたなでしこのその後の歴史を考えた時に、今回のリスタートは日本女子サッカーの未来に大きく関わる大事な、大事なリスタートである。
なでしこの目指す理想のサッカーで世界一を奪還してこそ、女子サッカー人気が日本で定着する礎となることは絶対に必要であるからだ。
なるほど女子サッカーの魅力はここにあるのか。そして観ていて楽しい上に、世界でも一番強いサッカーが日本にはあるのだなと、多くの人に感じてもらえたなら。
2011年ワールドカップ優勝から13年の月日が流れた。2021年にはついに女子のプロリーグ「WEリーグ」が発足したが、集客を含めて認知度は広まっていかない現状がある。
競技人口の底辺の拡大、WEリーグの人気獲得、スポンサー増大などによるクラブ経営の健全化、女子サッカーを取り巻く環境改善への課題は多い。
しかし、なでしこメンバーの海外進出などトップクラス選手の活躍は人気獲得への一つの希望ともなるだろう。
2031年のFIFA女子ワールドカップ日本招致も視野に入れながら、なでしこジャパンがアイコンとなって日本女子サッカーをまた新しい景色へと誘ってほしい。
そうした将来の行方を握る、なでしこの新監督は誰になるのか。注目して発表を待ちたいと思う。

韓国戦の観客数は12420人で、6万人を収容する国立競技場の器からすると、やはり寂しい。いつかこのスタジアムを超満員にする時が来ることを期待する。

日本サッカー協会は、「なでしこジャパン」の新監督にニルス・ニールセン氏(53)を指名した。女子日本代表としては初の外国人監督の誕生だ。
デンマーク出身のニールセン氏は2013年~17年までデンマーク女子代表監督、18年~22年までスイス女子代表監督を歴任。
17年にはデンマーク女子代表を、UEFA欧州女子選手権で準優勝に導いた。今年まで、なでしこジャパンの選手が多く所属するマンチェスターCで女子テクニカルダイレクターも務めるなど豊富なキャリアを持つ。
12月18日の記者会見では、「なでしこを率いるのは夢であった。世界のトップに返り咲くことを目指す」と語った。
来年2月にアメリカで開催される「シービリーブスカップ」で初の指揮を執る予定だ。
選手選考を含む采配を楽しみにしたいと思う。

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